全盲のシンガー・ソングライター、木下航志(きしたこうし)さん(35)が路上ライブを始めたのは、8歳のころだ。当時、鹿児島市内の盲学校へ通っていた。路上へ連れ出したのは、佐賀県に住む小学校教諭だった。

熊本城公園でライブに挑む8歳の木下航志さん(右)と宮崎利夫さん=木下さんの母親提供

 木下さんは未熟児網膜症のため生後1カ月で失明。2歳でおもちゃのピアノを弾き始めた。路上ライブで徐々に人気を集め、2006年にメジャーデビュー。ジャズを好み、自由なアレンジで弾き語る姿は「和製スティービー・ワンダー」とも呼ばれる。

写真・図版
ピアノを弾き、歌う木下航志さん=2024年6月4日午後2時2分、佐賀県有田町、松本江里加撮影

 27年ほど前。佐賀県の小学校教諭、宮崎利夫さん(65)は、テレビ番組で全盲の木下さんがピアノを弾く姿に魅了された。テレビ局を通じて連絡を取り、鹿児島市内の木下さん宅を訪ねた。

 木下さんは人見知りで最初は戸惑っていたが、音楽の話で盛り上がるうち、ピアノを弾き始めた。宮崎さんは連弾で参加し、即興のミニライブが始まった。

 「歌いたくなってきた」

 こう言って木下さんは、DREAMS COME TRUEの代表曲「未来予想図Ⅱ」を歌い始めた。

写真・図版
路上ライブに挑む9歳の木下航志さん(中央)と宮崎利夫さん(右)=木下さんの母親提供

 それまでは母の前でしか歌っ…

共有