5月17日、日本最西端に位置し、台湾に最も近い「国境の島」・与那国島(沖縄県)を、駐日米大使のエマニュエル氏が訪問しました。歴代米大使で与那国島を訪ねたのは初めてで、県が記録を取り始めた1997年以来、米軍機が同島の民間空港を使用したのも初めてでした。
今回のエマニュエル大使の与那国訪問を、私も現地に入って取材しました。その様子を皆さんに紹介しながら、訪問後1週間で何が起きたかを振り返り、「与那国」の地理的、戦略的、政治的意味を考えてみたいと思います。
与那国島に陸上自衛隊の与那国駐屯地ができ、「沿岸監視隊」を発足させたのは2016年。今年3月には相手の通信やレーダーを妨害する「電子戦部隊」も追加配備され、近く「ミサイル部隊」も新設される計画です。台湾などとの「交流の島」を目指した与那国でしたが、米中対立などのあおりを受け、「要塞(ようさい)の島」として軍事拠点化・前線基地化が進んでいます。
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まず、大使訪問後に何が起きたのかを見てみましょう。大使が与那国島を訪れたのは、約110キロ離れた台湾で、民進党の頼清徳(ライチントー)氏の総統就任演説が行われる3日前でした。大使は与那国訪問のタイミングについて「戦略的計画ではなく、偶然だ」と話しています。
大使がわざわざ、このタイミングを狙って同島を訪れたのか、定かではありません。ただ、対中強硬派の大使に、中国を牽制(けんせい)し、同島での将来的な米軍のアクセスを確保したいとの狙いがあったのは確かでしょう。
中国は「懲罰」 台湾を囲む形で軍事演習
台湾では20日、頼新総裁が就任演説で、蔡英文(ツァイインウェン)前政権の「現状維持」路線を引き継ぐ一方で、中国の言動について「世界の平和と安定に対する最大の戦略的挑戦」と批判し、「中国が、中華民国が存在するという事実を直視することを望む」と注文をつけました。
これに「『独立仕事人』の本…