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神戸市役所=神戸市

 神戸市議会は23日、選択的夫婦別姓制度の速やかな導入を国に求める意見書を採決した。賛成32、反対32で同数となり、坊恭寿議長(自民党)の判断で否決された。

 議案を提案したのは、公明党、共産党、立憲民主党所属議員らでつくる「こうべ未来」、神戸志民党と新社会党議員でつくる「つなぐ」所属議員と、無所属議員1人。

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 提案者を代表して公明党の吉田謙治議員が議場で提案理由を説明した。名前は人のアイデンティティー、個人の尊厳を保つものとした上で、「選択的夫婦別姓制度の意義は、自分の存在を示す姓名を名乗りたい気持ちを大切にすること。夫婦同姓でもよいし、別姓でもよい。個人の選択の自由として認めるべきだ」と話した。

 意見書案では、仕事で築いた評価を損なうことやアイデンティティーの損失など、姓を変えることで生じる不利益を踏まえ、「人権に関わる問題」と指摘。旧姓の通称使用を拡大しても、氏の変更による本質的な問題は解決されず、ダブルネームの使用には弊害が多いとした。

 一方、反対には自民党、日本維新の会、自民党議員でつくる「新しい自民党」所属議員と、無所属議員2人が回った。

 反対したある議員は「制度が変わることに不安を持つ人を置き去りにはできない」。別の議員は「親子やきょうだい間で名字がバラバラになることについて、熟議が足りない」と話した。

 市議会事務局によると、神戸市議会には2020年以降、同様の意見書の提出を求める陳情が5回提出されている。いずれも審査打ち切り、または不採択だった。

 今年度も、兵庫県弁護士会の中川勘太会長が陳情を提出し、今月17日に総務財政委員会で議論がされた。

 「国会で双方の課題を認識しながら議論を進めていただきたい」とした自民党所属議員と、「結婚後も旧姓で社会経済活動が行える仕組みの構築を目指す」とした日本維新の会所属議員が「審査打ち切り」を主張した。

 公明党、共産党、こうべ未来所属議員と、無所属議員は「採択」を主張し、賛否が同数だったため、上畠寛弘委員長(自民党)が審査打ち切りを決定した。

 この日の採決を受けて、坊議長は朝日新聞の取材に「委員会での同様の陳情の結果にならった。長く続いた制度なので、賛成と反対が拮抗(きっこう)する状態では、変えていく判断はしにくい」と話した。

 賛成したある議員は「時代に逆行している。恥ずかしい」。別の議員は「(反対派は)反対理由を議場で言わず、議論を尽くそうとしない」と批判した。

 選択的夫婦別姓制度の導入を求める一般社団法人「あすには」のまとめによると、制度の実現や議論を促す国への意見書を採択した地方議会は、県内では伊丹、尼崎、豊岡、高砂など8市。全国の指定市では13市議会が採択している。(杉山あかり)

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