3度目のタイトル挑戦で壁を破った伊藤匠叡王(21)。八冠を独占した藤井聡太名人・竜王(21)をタイトル戦で破った最初の棋士となった。その強さはどこにあるのか。

感想戦で読みを確認する伊藤匠叡王=2024年6月20日午後7時36分、甲府市、杉村和将撮影

 4月7日に名古屋市で開幕した第9期叡王戦五番勝負(不二家主催)。その時点で伊藤と藤井の対戦成績は、伊藤から見て0勝10敗(1持将棋あり)。昨年の竜王戦、今年の棋王戦と続いた2度のタイトル戦でも、伊藤は一勝もできなかった。

 開幕局の前日会見で伊藤は「前の2回の番勝負はタイトル獲得に期する思いが強かったが、今回は、純粋にいい将棋をお見せできるようにという思いの方が強い」と語った。タイトル獲得へ意欲を見せる言葉は一切なく、熱戦にすることが目標だと言った。

 だが、第2局で藤井に初勝利をあげると、続く第3局で際立つ強さを見せる。藤井が好調と見られた終盤で逆転して見せたのだ。検討陣の棋士たちをうならせる正確な攻め。終盤力で、あの藤井を凌駕(りょうが)した。

 そして20日の第5局。終局直後のインタビューで、敗れた藤井は「伊藤さんの力を感じるところが多くあった。終盤戦で上回られた」と語った。

 藤井も認めるその終盤の力が、攻めだけではなく、受けに強く表れたのが第5局。そのポイントになる場面があった。

あの藤井聡太名人が「終盤で上回られた」と語るほどの、伊藤匠叡王の終盤力とは。勝又清和七段がその正体を解き明かします。

 藤井は中盤、銀を犠牲にして…

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