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ナショナルコレクションに認定された氷室種の一つ「氷室雪月花」。淡い桃色の地に紅の吹きかけ絞りが入る=2025年3月6日、神奈川県茅ケ崎市、足立朋子撮影

 湘南の海を臨む閑静な住宅街に、知る人ぞ知るツバキの名園がある。

 三井不動産の副社長を務めた故氷室捷爾(しょうじ)さん(1905~88)の自宅だった神奈川県茅ケ崎市の「氷室椿庭園」。いま、氷室さんが自ら育種した「氷室種」と称される貴重な花々が見ごろを迎え、多くの人が訪れている。

 「一流の企業人であり、優秀なツバキのブリーダーでもあった。そんな人、ほかに見たことがありません」

 生前の氷室さんを知る元県立大船植物園長の篠田朗彦(あきひこ)さん(85)はこう振り返る。邸宅は氷室さんの死後、茅ケ崎市に寄贈され、91年から一般公開。篠田さんは庭園の植栽アドバイザーを務める。

 氷室さんと妻の花子さん(故人)が終戦の年に東京都内から引っ越し、丹精してきた約2800平方メートルの和風庭園は、マツやサクラ、バラなど約1300本の低木類から成る。

 中でも特筆されるのが、約900本を占めるツバキだ。江戸系や中部系、肥後系などの在来種約350本のほか、氷室さんが交配・育成した約550本がある。

 篠田さんによると、氷室コレクションの素晴らしさは大きく2点ある。

プロとも交流、学術的な評価も

 一つは、在来種を導入する際…

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