「ヘアドネーションって知ってる? 私たち、挑戦しているの」
こうめいさん(40)は、双子の娘もっちゃん(9)とこっちゃん(9)が、親戚のたかこさん(63)にそう言うのを聞いて、びっくりした。
「ヘアドネのこと、忘れてなかったんだ」
今年1月、こうめいさんは埼玉県加須市にある、亡くなった妻みどりさんの実家にいた。
こうめいさんが、自身の血尿を確認する2日前。新潟県にスキーに出かける前日のことだ。
病気の治療などで髪の毛を失った子どもたちのために、伸ばした髪を寄付するヘアドネーション。
2人の祖父でみどりさんの父のりあきさん(69)は「みどりのことがあったからだろう」と推測した。
みどりさんは2種類目の抗がん剤を使い始めてから髪が抜け、ウィッグを着けた。そのウィッグを、2人も遊びで頭に乗せて喜んでいた。そのことを今でも覚えているのは確かだった。
娘たちへ 2冊のだいすきノート(連載はこちらから)
極めて厳しいがんであることを知ったみどりさんは、双子の娘たちへの思いを二つの冊子に残し、旅立ちました。その時からもうすぐ5年。娘たちはある挑戦に取り組んでいました。それからの家族の姿を見つめました。
ただ、2人がヘアドネをしようと思い立った直接のきっかけは、みどりさんの経験とは別だった。
お友だちのママ 「だれかの役に」
2022年3月。こうめいさん一家は、2人の幼稚園時代のお友だち「みとちゃん」の家族と、群馬県にスキーに行った。
一緒に泊まったコテージでのお風呂上がり、みとちゃんのママ(44)が2人の髪を乾かしながら、「お金をかけずに、だれかの役に立てる方法があるんだよ」と、ヘアドネについて説明していた。
みとちゃんママ自身、ずいぶん前からヘアドネに何度も取り組み、ちょうど娘も初挑戦しているタイミングだった。
みとちゃんママはこのとき、ママ友だったみどりさんが、脱毛してウィッグを着けていたことは知らなかった。
肩のあたりまで髪が伸びていたもっちゃん、こっちゃんは、ふんふん言いながら、みとちゃんママの話を聞いていた。脱衣場の外にいたこうめいさんにも、みとちゃんママの説明する声が聞こえていた。
でもその後、2人がヘアドネについてこうめいさんに語ることは一度もなかった。
だから、もうすっかり忘れて、その気もなくなっているのだろうと、こうめいさんは思っていた。
そもそも、2人が髪を伸ばす第一の目的は、おしゃれをすることだった。
近ごろお気に入りの髪形は
幼稚園に通っていたころ、2人が何より好きだったのは、「美女と野獣」の「ベル」や「アナと雪の女王」の「エルサ」など、ディズニーのプリンセスだった。キャラクターをイメージしたおもちゃのドレスを着るなどして、大喜びしていた。
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