「骨が砕けたかも」
ぱきぱきぱき……。
アスファルト路面にできた穴に左足をとられた瞬間、体の中を通じて左の足首付近から脳に向かって、決して聞こえてはいけない音が、はっきりと聞こえてきた。
左前の地面に向かって倒れていく体。転倒を回避しようと、体のバランスを必死で保ちながら思った。
「骨が砕けたかも……」
「やってしまった……」
8月24日午前1時少し前だった。
前日の23日午後11時に、北海道函館市の五稜郭一の橋広場をスタートした「第1回道南ものがたりジャーニーラン」(210キロ、スポーツエイド・ジャパン主催)の最中だ。
レースは、函館市から北斗市を経由し、日本海追分ソーランライン(国道228号)を走って南下。木古内、知内、福島の3町を通過し、まず北海道最南端の白神岬(松前町)をめざす。
そこから日本海沿いを北上。上ノ国町を抜け、江差町へ。そこで折り返して上ノ国町まで戻り、山間部を抜けて木古内町へゴールする。
120人がエントリーし、112人が出走した。
私が「やってしまった」時、私を含め多くの選手は、函館市や北斗市の市街地を抜け、街路灯のほぼない道を、ヘッドライトやハンドライトで照らしながら進んでいた。
左手に広がる函館湾の対岸には、函館の街のあかりが輝いていた。
レースはまだ始まったばかり。序盤はペースを抑える作戦だったので、1キロ7分台で慎重に走っていた。
脳が空まで飛ぶような痛み
厳しい冬のある北海道では、アスファルト道路の表層がはがれて穴(ポットホール)ができやすく、路面が荒れている場所が多い。10年以上、北海道でジョギングしてきた私にとって、そんなことは常識だった。
しかし、私は、あの穴にはまったく気づくことができなかった。
辛うじて転倒を回避した私は、穴から抜いた左足を路面に着いた。
その瞬間、脳が空まで飛んでいってしまうのではないか、というほどの痛みが左足から全身を駆け抜けた。
まだ14~15キロ付近だった。
自問自答が始まった。
200キロ以上のレースでの完走をめざしている筆者。しかし、この大会ではスタートから2時間足らずで、骨折してしまいました。でも、レース中は本当に骨折しているとは思っていませんでした。限界まで1歩でも前に進むことを選んだ筆者が見た世界とは……。
「まずい。この痛みを抱えた…