仕事ができる人に、どんどん仕事が集まって……=イラスト・中島美鈴

 仕事のできる人のところに、どうしても次々に仕事は集まってくるものです。

 それでも成果を上げて、きっちりと評価されて、自信をつけながら生き生きと仕事する人もいます。しかし、中には仕事量が増えすぎて、過労になって病んでしまう人もいます。

 今回の記事では、どうやったら「できる人がつぶれないか」について、本人にできる対策をお伝えします。

 働きざかりの会社員マコトさん(仮名、40代男性)もまた、職場で期待され、他の職員には振られないような難易度が高く、かつ締め切りも近い仕事を言い渡されることが多くあります。

 マコトさんは、もともと仕事が速い方でもありませんし、どちらかといえば不器用なタイプで、学生時代から「努力で成果を出す」タイプでした。

 そのため、社会人になってからも、残業したり、日頃からコツコツ努力したりの積み重ねで仕事を覚えて、成果を上げてきました。

 しかし40代になった頃から、周囲はマコトさんを「もともとできる人」として期待するようになってきました。

 マコトさんの職場はデスクワークではなく、日中は営業で外回りが中心のため、事務作業は帰社した夕方以降にしなければなりません。マコトさんに任される仕事は「全国の支社が参加する◯◯コンテストに向けた資料作成」などのデスクワークが多くあります。多くの社員は、外回り仕事が終わると、事務作業をさっさと終わらせて帰ります。そんなスタイルですので、マコトさんが普段の仕事にプラスしてコンテストの仕事をするということは、完全に残業確定ということになります。

 先日も上司から朝礼の後に別室に呼び出され、「これは君にしか頼めない。支社から1人ずつ出場するコンテストなんだ。ひとまずエントリーさえしたら、今月末までに準備すればなんとかなるから」と言われたのです。マコトさんは正直上司に特別扱いされています。他の社員より気にかけてもらっていることがわかるし、そんな上司の期待に応えたいのです。

 マコト「上司も、自分が応募すると言わないと困るだろうな。この支社の中でこんなに締め切りの迫ったむちゃな仕事を、完成度高くこなせるのは自分しかいないもんな。もっと有能なやつもいるけど、俺ぐらいしかこれは請け負わないしなあ。」

 こうして、マコトさんはまた仕事を引き受けてしまいました。

 マコトさんの妻は腹立たしく思っています。

 妻「あの人、また残業が増えた。あの人ばかりに仕事が集中するのってどうしてかしら。できる人のところに仕事が集まるっていうけど、あの人は尋常じゃないほど時間をかけて仕事をする人だから、体が心配。上司もあの人の良さに甘えすぎよ。ブラックすぎる。」

 たしかにマコトさんへの仕事のオファーは心配なほど増えていっています。このままではマコトさんは倒れてしまいます。どうしたらいいのでしょう。

仕事ができる人に仕事が集まる仕組み

 マコトさんのように上司からの「~して欲しい。してくれないと困る」といった状況を素早く察知して、自分自身のスケジュールや体調よりも上司の機嫌を優先してしまっている人は多くいますね。こうした自己犠牲で、むちゃな締め切り、高い難易度の仕事でも無理しながらこなしてしまうのです。

 すると、上司から見ると「あいつに頼んでおけば、むちゃな案件でも、安心していい成果を残してくれる」と信頼が増すわけです。それで、また次の仕事が来るとマコトさんに回します。

 こうして、仕事のできる人に仕事が集まる循環がどんどん補強されていくのです。

 図示するとこうなります。

(マコトさんの元に仕事が集まる悪循環)

 ①むちゃな仕事を振られる 

  ↓

 ②「期待に応えなければ」「できると思われたい」「上司に好かれたい」

  ↓

 ③必死で頑張る

  ↓

 ④良い成果が出る

  ↓

 ⑤上司はますます期待する「あいつはできるな」

  ↓

 ①’また仕事を振られる

 さて、この循環から抜け出すことが必要です。

 でもどこからどう手をつけたらいいのでしょう。

変えるとしたらここの認知だ!しかし難しい

 仕事のできる人の悪循環は、本人からみると「どうにも抜けようのないループ」に見えてしまうところがやっかいです。

 この循環から抜け出すには、①から⑤のうちどれかを少しだけ変えてみることです。循環を食い止めるというよりは、よりマシな循環に角度を調整する、ぐらいはできそうです。マコトさんの例なら、過労死レベルに頑張ってこなしていたBeforeから、許容範囲の残業でコンテストの準備ができて、その分本業を別の社員にフォローしてもらえるAfterに変化することぐらいはできそうです。

 さて、みなさんは①から⑤のうちどれなら、マコトさんは変えることができると思いますか?

 「①むちゃな仕事を振られる」「⑤上司はますます期待する『あいつはできるな』」は上司側の行動なので、マコトさんにはどうにもしにくいものです。

 しかし、「②『期待に応えなければ』『できると思われたい』『上司に好かれたい』」「③必死で頑張る」はマコトさんの考えや行動なので、コントロールできる範囲ですね。

 ここを少しだけいじってみましょう。ちなみにこうしたアプローチを認知行動療法といいます。

 マコトさんは、②「期待に応えなければ」「できると思われたい」「上司に好かれたい」と考えていますが、これはおそらくマコトさんが昔から持っているパターンです。振り返れば、マコトさんは親に対しても、学校の先生に対しても、いつも期待に応えようとしてきました。

 一方で、マコトさんは小さい頃から、計算ドリルをするのも、50メートル走も、決してクラスで一番速いわけではありませんでした。成績もトップではありませんでした。

 マコトさんは「自分は能力が低い」と思っていたので、その分、人より努力することを惜しみませんでした。宿題に出されていない範囲の計算ドリルも、自分で広い範囲を繰り返し解いていましたし、走るのが速くなるように走る練習もしていました。

 小さい頃から努力を重ねながら、いつしかマコトさんは「自分はもとの能力は低いけど、コツコツ努力を続けていれば、結果を出せる」と思うようになりました。中学生になると、継続した努力は実って、学年で一位の成績を維持できるようになりました。

 しかし高校生になると、周囲も勉強を頑張りだして、マコトさんの成績は振るわなくなり、第一志望の大学に不合格となってしまいました。このときのことをマコトさんはよく覚えています。

 マコト「両親があからさまにがっかりしていたんですよね。あのときに思いました。やっぱり成果を残せないと、失望されてしまうんだ。」

 そこからマコトさんの今のスタイルが確立したようなのです。

 こんなふうに、たいてい私たちが今「変えられない」と苦しんでいる認知は、昔から繰り返し身につけてきたもので、変えがたいのです。

 ちょっと長くなりましたね。

 こんなふうに今の悪循環には、昔からのルーツがあるのです。

 まずは、悪循環に気づき、「いつからこのパターンがあるんだっけ」と振り返りましょう。そうすることで、「気づいたら悪循環の真っただ中に巻き込まれていた」という状態から、「ああ、またこのパターンか」と少しだけ自分の状況を客観的に見ることができます。

 さて、ここからの脱出方法は次回に続きます。

    ◇…

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