TSMCをはじめ半導体産業を長年取材してきた経済ジャーナリストの林宏文さん=2024年4月24日、東京都中央区、高橋豪撮影
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 半導体の受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)。世界シェアは6割を超え、最先端の領域では、ほぼ独占的な立場にある。日本にも進出し、熊本に工場を建てた。そんな半導体の「巨人」の姿を詳しく伝える情報は乏しい。TSMCを30年以上にわたり取材している現地の経済ジャーナリスト林宏文さんに、TSMCの熊本工場や日本の半導体政策について聞いた。

 ――今年2月、TSMCの熊本工場が開所し、年内には量産を始めます。海外進出に消極的だったTSMCが日本に工場をつくる狙いとは。

 「TSMCは自社ブランドの製品を持っていないため、顧客が成功しなければ自らも成功できない。熊本工場の顧客はソニーグループとトヨタ自動車だ。ソニーのイメージセンサーは米アップルの『iPhone』にも使われる。アップルはTSMCの大口顧客でもあり、アップルのためにも、ソニーには成功してほしいと思っているだろう。トヨタがつくる自動車向けの半導体も重要だ。トヨタが電気自動車(EV)などの新エネルギー車を、良質に、環境にやさしく、リーズナブルにつくるためには、TSMCと手を組まなければならない。自動車産業は日本の最大の軸。トヨタの成功は日本の自動車産業の成功につながる」

 「こうしたTSMCの考え方は、ライバルたちとは異なる。米インテルや韓国サムスン電子には自社ブランドの製品がある。TSMCは顧客と同じ船に乗っているのであり、顧客とウィンウィンの関係になりたいと考えている」

 ――日本政府は半導体産業の…

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