短編「宙(ソラ)の大統領」 SF作家・飛浩隆

イラスト・米澤章憲

 「ねえハヤ、またおたくの大統領が暗殺されたよ」

 耳もとでソラの声が言った。

 「せいぜい10機くらいだろ。なんてことないよ。うちの大統領は千機もいるんだから」

 「こっちだって同じ数だよ」

 「昔はさ、暗殺されたら終わりだったって。考えられないよね」

 ハヤが歩く山道の先に、学校のとんがり屋根が見えてくる。

 「ゆうべのあれ、ないしょだよ」

 うん、と返事してハヤは校門をくぐる。教室に先生が来ると、みんなは耳たぶの携帯機をさわる。教室の設備と脳がつながり、黒板にけさの世界地図が映る。かつて西側先進国とされた国々は、内戦状態を反映して、白と赤で細かく塗り分けられていた。日本列島は八つが白で九つが赤。その境界に沿って黄色のイナズママークがたくさん並んでいる。武力衝突の箇所を示す印だ。

 「印の数が閾値(いきち)を超えると状況は急激に悪化し、全面的な戦争状態に入ると予測されています」

 だれかが心細そうに咳(せき…

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