MV(ミュージックビデオ)作りに打ち込む男子高校生が主人公のアニメ映画「数分間のエールを」(14日から公開中)は好感の持てる爽やかな作品ですが、ちょい軽い。ナマっぽさが足りない。映画全体がMVっぽくなっちゃってる気がします。この原稿はMVがストーリーやドラマよりムードやノリを重視するという前提で書いております。MVを見なくなって久しいので偏見かも知れません。ただ劇中のMVはよく出来ていて面白い。それゆえ本編への不満がグッと頭をもたげてきた、というところはあります。物語と映像、その両方に原因が思い当たります。
軽音部の級友に依頼されたMVのアイデアに詰まった彼方(かなた、声・花江夏樹さん)はモチーフを捜して雨の夜の街に出て、ギターをかき鳴らし熱唱する若い女性のストリートライブに大感動。声をかけるが彼女は彼方の制服の校章を見るなり「ごめんなさい!」と言って逃走。翌日、新しい英語教師として着任した夕(ゆう、声・伊瀬茉莉也さん)がまさにその人。「先生の歌のMVを作りたい!」と猛プッシュしてくる彼方を夕は初め拒んだが、自身の出演するライブハウスに夕を招き、MVを「最後の思い出」にして歌をやめると宣言する――。
淡い色彩のキラキラした映像に乗せ、夢に突き進む男子高校生と物静かで謎めいた女性教師の出会いを描く、となればこれはもう新海誠監督の「言の葉の庭」(2013年)を連想しますが、本作は恋愛方面には進みません。それはそれでいいとは思いますが、「言の葉の庭」が主人公と教師の恋愛感情のドロドロしたエネルギーを使って人間味(つまりナマっぽさ)を終盤にぶちまけたのに比べると、本作の夕は淡泊で距離があって、体温があまり上がりません。主人公の情熱も「いいMVを作りたい!」だから夕そのものに直接は向かいません。
「自分のつくったもので人の…