勝ち残る確率は、わずか0・009%。歴代最多1万330組がエントリーしたM―1グランプリは、22日に決勝を迎える。漫才の頂上決戦は、まさに富士山。頂が高く、裾野は広く。出場者の6割を占めながら全滅したアマチュア出場者にも物語があった。泣いても笑ってももうすぐ決まる、1万330分の1の勝者の陰に。
シャネルのブローチ
「頑張って起きてきました」
今年9月。1回戦の東京会場に現れた2人組は、真っ昼間から眠そうだった。
金色のメッシュが入った前髪が目にかかっている。もう1人もシャツの襟を立て、首元にネックレスとシャネルのブローチ。胸元のエントリーナンバーのシールより目立っている。
「夜の仕事なんです」
ホストだ。2人とも、新宿・歌舞伎町のクラブで働いている。
なぜM―1に?
「面白そうと思って」
シャネルをつけた方がすっと差し出した名刺には「太宰治」(源氏名)。裏側には文字がびっしり。「最高級の空間があなたを招く」「あなたはただの来場者ではなく、夜の主人公」。漫才の大会に出るだけあって、名刺もおしゃべりらしい。
月数千万円の夢
クラブは歌舞伎町1丁目にある。揺らめくシャンデリアの下、ホストと客の駆け引きが展開する。
一番稼ぐのは誰か。あからさまに見える商売だ。ネットに顔を出し、売り上げの金額もランキング形式で公開される。1千万円、5千万円……。M―1の優勝賞金以上の金額を、ひと月で稼ぐのも夢じゃない。
昔は昼の仕事をしていた。「営業だったんですけど、若いうちにしかできないことをやりたくなって」
売り上げの半分が収入になるこの仕事を気に入っている。ただ、稼げなければ食べていけない。給料日、天と地がはっきりする。手渡しの札束の厚みから、順位を痛感させられる。
「影」から表舞台へ
M―1に出たのは「挑戦したくて」。一度、舞台の真ん中に立ってみたかった。「いつもは女の子が主役なんで」
キラキラ着飾っても、自分は「影」。ネオンとシャンデリアはスポットライトになってくれない。
お笑いと夜の仕事。畑違いに見えても、重なるところがあると2人は言います。ナンバーワンになるのはどういう人なのか。何が必要か。勝負の世界に身を置いて分かることとは。
M―1の舞台に立てば、だれ…