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首脳会談に臨み、握手を交わす石破茂首相(左)とトランプ米大統領=2025年2月7日午後0時25分、米ワシントンのホワイトハウス、恵原弘太郎撮影
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 トランプ米大統領が今月署名した国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)の関係者を制裁する大統領令をめぐり、ICCに加盟する79カ国・地域が非難する共同声明を出したが、最大の分担金拠出国であり、トップの所長を出す日本政府は名前を連ねなかった。これまで「法の支配」を訴えてきたにもかかわらず、トランプ氏ら米側の反応を恐れて身動きを取れずにいる。

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 「あまりにもタイミングが悪かった」。ある官邸幹部は、非難声明に日本が「不在」だったことについて、そう打ち明けた。大統領令は日米首脳会談前日の6日に発令された。ICCが昨年11月、パレスチナ自治区ガザでの戦闘をめぐりイスラエルのネタニヤフ首相らに戦争犯罪などの容疑で逮捕状を発行したことを受けたもので、ICCの赤根智子所長はすぐに「深い遺憾の意を込めて受け止める」とする声明を発表。「ICC加盟国や法の支配に基づく国際秩序に対する深刻な攻撃だ」と非難した。

 日本政府内にも「大統領令は受け入れがたい」「ICCを守る方向でアクセルを踏むべきだ」(いずれも外務省関係者)との意見がくすぶる。だが、トランプ氏の対日圧力を回避したい日本政府は、同氏の感情を逆なでしてしまうことを恐れ、非難声明に加わらないという判断に傾いた。

 日本政府は今後も大統領令を非難することには消極的だ。背景には、日本がトランプ氏ら米側に反対姿勢を示して刺激すれば「赤根氏個人が制裁対象にされてしまう」との見方があるからという。その結果、政府内では「静かに慎重に対応するべきだ」(外務省幹部)との意見が大勢を占める。

 岩屋毅外相は12日の記者会見で、日本が共同声明に参加しなかった理由を問われ、「交渉の経緯は外交上のやり取りなので、差し控えたい」と述べる一方、「わが国は『法の支配』の徹底のためICCを一貫して支持している」と強調した。

 「法の支配」を掲げる日本は、ICC加盟125カ国・地域中、最大の分担金拠出国。所長は昨年3月から赤根氏が務め、ICCへの関与度合いは高い。一方、ICCには警察組織のような独自の強制力はなく、捜査や逮捕は加盟国などの協力に頼らざるを得ない限界もある。また、加盟国は国連加盟国の約6割にとどまり、国連安全保障理事会の常任理事国の米国、中国、ロシアは非加盟だ。ICCを支持する日本が中国やロシアのみならず、米国にも明確に「法の支配」の重要性を打ち出せるか、問われる事態となっている。

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