気鋭の歌人は自身の歌集を学んだ人工知能(AI)と向き合い、何を思ったか。4月に記者サロン「木下龍也さん×AI短歌 あなたのために詠む短歌」で、AIと同じ「お題」で歌を詠む体験をした木下龍也さん(36)に寄稿してもらった。
- 【8/30まで配信中】記者サロン「木下龍也さん×AI短歌 あなたのために詠む短歌」
木下さんは2013年に第1歌集「つむじ風、ここにあります」を出版。「オールアラウンドユー」などの歌集のほか、依頼者からのお題に応じた100首を収めた「あなたのための短歌集」が話題を呼び、21年の刊行以来、13刷4万6千部と版を重ねている。
4月26日に朝日新聞東京本社で開催した記者サロンでは、事前に参加者から「こんな短歌を詠んでほしい」という「お題」を募集。このうち四つを選び、木下さんと、木下さんの承諾を得て朝日新聞社が「あなたのための短歌集」の内容を学習させたAIが、同じお題でそれぞれ短歌を詠み、感じたことや歌を詠むプロセスについて来場者と語り合った。
木下龍也さん寄稿「これは戦いではありません」
短歌AIへの第一印象は「怖い」だった。イベントの打ち合わせで初めて披露していただいたAIの短歌に僕は震え上がった。
〈訳(わけ)あって、知り合ったばかりの人と同棲(どうせい)を始めることになりました。大丈夫だろうという直感が働いた訳ですが、不安はあります。そんな私に短歌をください〉という架空のお題に対して短歌AIは《「同棲」なんて名前をつける前からあなたは私の中で住み着いていた》という一首を、〈100年後の未来から届いた短歌をお願いします〉に対して《あなたがこの短歌を読むたびに私は100年ほど若返るよ》という一首を出力していた。
巧(うま)いし面白い。しかもこれらは、短歌AIが無数に弾(はじ)き出した答えのうちから選ばれたひとつに過ぎない。僕の短歌を学習したとはいえ、僕が挑んだことのないお題に挑み、僕が辿(たど)り着いたことのないたくさんの答えに辿り着く。それも一瞬で。
同じお題に挑んだら、僕はこ…