【ニュートンから】科学と倫理の交差点(4)

 韓国のテレビで,2020年にあるドキュメンタリー番組が放送されて大きな話題となりました。7歳で亡くなった娘の生前の写真や動画などを元に,CGで姿や動きを再現し,声はAI(人工知能)の技術を使って生前のものに近づけました。娘と“再会”した母親は,仮想空間で娘と話したり,テーブルを囲んだりしました。

 2019年には,NHKの番組企画で「AI美空ひばり」が誕生しました。歌手・美空ひばりの生前の歌声をAIに学習させ,新曲を歌わせたのです。AI美空ひばりは,2019年末の紅白歌合戦にも出場しました。

 こうした“死者の復活”は,ともに大きな感動をよんだ一方で,批判的な意見もありました。AIなどの技術を使って,亡くなった人をよみがえらせる行為は,倫理的に正しいのでしょうか?

よみがえらせることの倫理的問題点

 功利主義で考えると,亡くなった人が何らかの形でよみがえることで喜ぶ人たちがいるので,とくに問題はないように思われます。一方で,義務論の立場でいえば,たとえ幸福になる人がいても,そのために他者(亡くなった人)を利用する行為はよくないということになり,倫理的に問題があるといえそうです。

  • 「功利主義」と「義務論」

 “死者の復活”に寄せられる批判的な意見の一つに,「本人の事前(生前)の同意がない」ことがあります。死後にAIで復活することが現実的に想定できるようになったのは最近ですから,それより前に亡くなった人については今後も復活に際して本人の同意を得ることはできません。

 アメリカのヒアアフター社は,グリーフケア(死別などによる喪失感のケア)の一環として,「AI故人」のサービスをすでに提供しています。AI故人は,生前の故人が同意のもとで録音した音声や質問への回答を使って作成されます。遺族は専用のアプリを通してAI故人と簡単な会話などができます。このように本人の生前の同意があれば,故人の“復活”は問題ないのでしょうか。

 あなたは,遺族の希望によって死んだあとに自分が“復活”させられることに同意しますか? どういう条件がそろえば死者を“復活”させても問題がないと思いますか?

AI自身が責任をとることはできない

 AIをはじめとする情報科学…

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