
急速に発展するAI(人工知能)と共存する社会を見据え、大学や経済界、メディアの役割について考える「ELSI(エルシー)大学サミット」(中央大ELSIセンター、大阪大社会技術共創研究センター主催、朝日新聞社など後援)が15日、東京都内で開かれた。社会課題の解決にAIをどう使うのか、AIがもたらす不安にどう向き合えばよいのか議論した。
ELSIは倫理的・法律的・社会的課題と、その解決策を示す言葉。課題解決のために生み出されるテクノロジーが、かえって社会課題を引き起こしてしまう現実があり、AI研究や実用化にあたっても重視されている。
政府の「AIネットワーク社会推進会議」議長を務める須藤修・中央大ELSIセンター所長はAI開発の最新の動きとして、米オープンAI製などと並び、中国企業ディープシークのAIが科学や数学のテストで「人間の能力を突破するような性能に達しつつある」と紹介。人間並みの知能を持つAGI(汎用(はんよう)人工知能)について「国際的に定義が議論されつつある」と話した。
こうした状況を踏まえELSIの観点の重要性が増しているとして「法や政治的理念とあわせて(AI開発側の)エンジニアリングもしっかりと提案すべきだ」と文理融合の議論が必要だと強調した。
岸本充生・大阪大社会技術共創研究センター長は、進展が速い技術では、法律や倫理、社会的対応にギャップ(空白)が生じると解説。「生成AIはいきなり登場し、著作権法などのギャップが生じてしまった」と指摘した。
その上で、「倫理」の観点がよりどころとして期待されているとして、医学研究などが参考になると述べた。
角田克・朝日新聞社長は「AI時代のジャーナリズム」と題して講演。
AIを使った膨大な論文の解析など、記者の取材や記事の作成でAIの活用を進めているほか、ジェンダーなどの視点からも文章の適正さを判定できる校正AI「Typoless(タイポレス)」を一般に提供するなど開発にも力を入れていることを紹介した。
一方、記者が一次情報にあたる深い取材力がますます重要になると強調。政治とカネをめぐる報道など「勘を持ち、かぎとってチームとして取材できることが強み。AIが探してくることはできない」との考えを示した。
急速に発展する技術など「AIを監視することも大事だ」として、「産官学と社会をつなげるのがメディアの大事な役割になる。大学の皆さんとともにAIを考えていきたい」と語った。
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サミットは16日まで。
詳報は、22日にデジタル版、27日付朝刊の特集面に掲載予定です。