数学の超難問「ABC予想」を証明したとする京都大の望月新一教授(55)の独自理論をめぐって、「理論を修正し、新たにABC予想を証明した」とする新理論が登場した。疑問が指摘され、正しさをめぐる決着に100万ドル(1.5億円)の賞金がかけられている望月理論にとっては「助け舟」のようにも見えるが、数学者同士が激しい応酬を繰り広げ、混迷を深めている。
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ABC予想は、世界の数学者が証明に挑んできた整数論の難問。京大数理解析研究所の望月氏が、自身で創った「宇宙際(うちゅうさい)タイヒミュラー(IUT)理論」を使って証明に挑み、論文が2021年、数学誌に掲載された。
ただ、IUT理論は「どこが分からないのかさえ分からない」と言われるほど難解。さらに理論を疑問視する見方が消えず、理解者側と懐疑派の議論はかみ合わず膠着(こうちゃく)状態だ。見かねた日本の実業家が挑戦を促すため、理論の「間違いの証明」に100万ドルの賞金をかけている。
「望月の不等式」の解決を主張
問題解決へ光明が差し込んだかと思われたのは、米アリゾナ大のキルティ・ジョシ准教授が登場したためだった。
今年3月までに発表された一連の論文によると、ジョシ氏は「算術タイヒミュラー空間」という新理論を考案。このツールでIUT理論の問題点を修正できると主張した。
ジョシ氏が中心的に取り組んだのが、IUT理論の「系3.12」の証明だった。
この定理は、加減乗除の新しい枠組みを作り出すための重要なステップが示されている部分で、二つの数学的対象物の不等式が示されている。
今や「望月の不等式」とも言われ、IUT理論の中核をなす部分だ。
懐疑派が最も疑問視するのが、この定理だった。
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