ドーン、ドーンという大音響とともに、夜空をまばゆい大輪で彩る花火は、多くの人の心をときめかせてきた。だが、近年は燃えかすへの苦情やかさむ警備費などから、中止に追い込まれるケースが後を絶たない。

 そんななか、徳島の山あいで、全席有料のチケットが完売するほど人気の花火があるという。度肝を抜かれるような花火に出会えるかも。そんな期待を膨らませ、昨年11月、会場へ向かった。

 徳島県を東西に貫く清流、吉野川。その上流域にあたる美馬市と三好市にまたがる河川敷に、広さ約50ヘクタールに及ぶ西部健康防災公園がある。ここがうわさの全国花火師競技大会「にし阿波の花火」の会場だ。

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秋の夜空を彩った「にし阿波の花火」=2024年11月9日午後8時22分、徳島県三好市三野町、多重露光、吉田博行撮影

 日本のトップレベルの花火師が技を競いあう大会という位置づけで、約2万発の打ち上げ数は西日本最大級。

 打ち上げ開始は午後6時からだが、昼過ぎには、周辺5キロ圏内に設けられた12カ所の駐車場に続々と車が集まっていた。

 緑の濃い山並みを背景に、花火を打ち上げる川岸の筒場で準備が進んでいる。中でも目を引いたのが、川の土手にずらりと並んだ200台近いカメラの放列だ。

 待機中のアマチュア写真家に話を聞いてみた。

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「にし阿波の花火」を撮ろうと全国から集まった写真愛好家たち=2024年11月9日午後4時18分、徳島県三好市三野町、吉田博行撮影

花火師の「追っかけ」も続々

 「ここは筒場が広くて迫力がある。普通は真上に打ち上げるだけの花火を、斜めに打ち上げることもできて演出の自由度が高いんです」。埼玉県の会社員、河野千春さん(39)が熱く語ってくれた。

 花火競技大会を中心に年間約50回も撮影しているという河野さん。追っかけをしている花火師がにし阿波の花火に参加すると聞き、2019年の初回に来たのが初めての四国入りだった。この日も自宅から約800キロの道のりを車を走らせてやってきたという。

 写真歴20年以上になる福井県の会社員、河端健吾さん(56)も初回からのリピーターの一人。音楽のリズムに合わせて打ち上げるミュージックスターマインをここで見て、「花火師たちの技量のすごさを感じた」。「筒場が近く、迫力がある。去年よりいい写真を撮りたい」と気合が入っていた。

 そうこうしているうちに、山の向こうに日が沈んだ。秋のひんやりとした空気にもかかわらず、周辺は約3万人の観客で埋まっていた。

 ヒューという打ち上げ音とと…

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