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2024年8月下旬、刈り入れ間近の池田茂人さんの田んぼ=本人提供
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 丹後産コシヒカリが久しぶりに脚光を浴びた。京都府主催の2024年度「第8回京のプレミアム米コンテスト」で、京丹後市の生産者が栽培したコシヒカリが初めて最高金賞を受賞した。ただ、米農家にとっての「難敵」は温暖化。田植えの時期を半月ほど遅らせる工夫などで、復活への礎を築いた。

 米コンテストは、生産技術の向上や京都産米のPRなどを目的に2017年度に始まった。24年度は141の生産者が153点を出品した。内訳はコシヒカリ95点、キヌヒカリ23点、ヒノヒカリ35点。料理研究家や料理人による審査などで最高金賞1点、金賞3点、入賞4点が決まる。

 最高金賞を受けたのは、京丹後市網野町の「郷のこめ研究会」。8年ほど前に地域の農家が結成し、今では6人が米作りをする。よりよい米作りを追求し、情報交換をしたり各地の米どころを訪ねたりしている。

 会員の池田茂人さん(60)や引野禎人(よしひと)さん(57)によると、地区を流れる福田川の水質のよさが、いい米がとれる理由の一つという。

 ただ近年、丹後産コシヒカリは最も高い評価を逃していた。これまでの米コンテストでは入賞止まり。日本穀物検定協会が実施する米の食味ランキングでは07~14年の8年間で7回、丹後の米農家の悲願だった特Aを獲得したが、その後は特Aに輝いていない。

 それだけに今回の最高金賞を池田さんは「丹後産コシヒカリにとって意味があり、復活の礎だ」と話す。

 栽培方法に「秘策」があったわけではなく、池田さんが強いて挙げた工夫は「遅い田植え」だ。

 新潟県魚沼市などの米どころへ視察に行くたびに「遅く植えなさい」と言われた。5月の連休中に田植えをする生産者が多いが、池田さんは半月ほど遅らせた。稲の穂が出る出穂期を最も暑い時期から外すためだが、池田さんにとって「賭け」でもあったという。

 府丹後農業改良普及センターの大砂古俊之課長補佐によると、穂が出てから20日間ほどの登熟期の気温が重要になる。この期間の平均気温が27度を超えると、モミにでんぷんが入りにくくなり、未熟粒が増える。コシヒカリは炊くと独特の粘りがあるが、未熟粒が多いとやわらかく、俗に言うべちゃべちゃの米になる。

 5月初めに田植えをした場合、出穂は7月25~27日ごろで、その後の登熟期はお盆ごろまで。5月末に田植えを遅らせると、出穂は8月上旬、登熟期はお盆から8月下旬だ。

 府丹後農業研究所(京丹後市弥栄町)が敷地内で観測したデータでは、8月の気温の平年値は月末に向かってゆるやかに下がっている。特に8月25日以降は平均気温も25度に近づく。登熟期が8月下旬になるように、5月末に田植えを遅らせれば高温を避けられる。

 大砂古さんは「丹後では平成20年代半ばまでは、標準的な栽培でおいしいコシヒカリが作れ、特Aをとれた。いまは温暖化で生産者の苦労が続く。田植えの時期や肥料の与え方、出穂後の田の水管理など、より工夫が必要」と話す。

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