北アルプスを望む山あいの地、長野県安曇野市に、小さなパソコンメーカーがある。社員は360人ほど。顧客は国内の企業や官公庁などの法人向けが中心だ。
海外で生産する手頃なモデルも含め、全ての製品を安曇野の工場で最終点検してから出荷する。不良品の割合が1%だったとしても、一つの企業に1万台導入していれば、100台が故障する計算だ。そうなれば、その企業はもう契約してくれない。社内では「安曇野FINISH」と呼ぶ、品質へのこだわりだ。
冷却装置の点検では、密閉した空間にパソコンを置き、独自開発したという1年間分のホコリを吸わせ、ファンが作動するか確かめる。実際の使用場面を想定した耐久テストにも余念がない。
顧客から故障したパソコンが届くと、設計、製造、品質、修理の各部の担当者がわらわらと集まってきて、全員でのぞき込む。一つ屋根の下ならではの光景だ。スピード対応がウリで、時には販売中のモデルに修正を加えることもある。
このメーカーの名はVAIO。元はソニーのパソコン事業だった。独立から10年。中国レノボ系や米HPなど、海外の巨大メーカーが生存競争を繰り広げるパソコン市場で、小さなVAIOは健闘している。
ソニー時代に新卒で入社し、製造部門を統括する中村康春(52)は11月、「親会社の下ではありますが、一企業としてやっと独り立ちです」と晴れやかな表情で話した。VAIOは同月、投資ファンドの下を離れ、家電量販大手ノジマの傘下に入ることが決まった。
「ずっと不安の中でやってきましたから」。ノジマの傘下入りを聞いた中村の脳裏には、10年前の情景が鮮明に蘇(よみがえ)った。
音響と画質へのこだわりと…