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東京高裁判決を受けて、厚労省が開示した文書。「のり弁」はなくなった

 過労死認定をめぐる情報公開請求に対して厚生労働省が出してきた全面黒塗りの「のり弁」文書を不服として、朝日新聞が訴訟を起こすと、厚労省は一部の黒塗りを外した文書を出してきた。だがそこにはまだ、記者が知りたい情報は開示されていなかった。

 2020年12月、厚労省はそれまで全面を黒塗りしていた9枚の文書について、一部の黒塗りを外して中身が読める状態にして開示した。そのうち3枚は新国立競技場(東京)の建設工事で発生した過労死についてで、1枚は対象企業名が黒塗りされた「監督指導案について」という表題の文書だった。

 残りの5枚は、厚労省が18年3月に国会に出した「野村不動産への特別指導について、加藤勝信元厚労相(当時)が報告を受けた文書」と同じものだった。厚労省は国会で、17年11~12月に3回行った説明で使った文書だとしていた。

 当時焦点となっていたのは、加藤氏がこの説明で、野村不動産の男性社員の過労死について知ったかどうかだった。国会に提出された文書は大半が黒塗りされており、その点は分からなかった。

 記者が情報公開請求した文書の範囲が、「17年9~12月に厚労省が加藤氏に報告した個別の過労死事案」に関するものだったことを考えると、この5枚には野村不動産社員の過労死に関する記述が含まれていて、加藤氏がそのことを知ったであろうことは推測できた。

黒塗り一部外れるも「過労死」の記述なく

 だが、訴訟の途中で厚労省が出してきた文書では、一部の黒塗りが外されていたものの、そこに過労死や労災認定という文字はなかった。

 5枚の文書のなかには、専門家でつくる総務省の情報公開・個人情報保護審査会が「開示すべきだ」とした答申に従わず、黒塗りのままにしている部分が計12カ所あった。

 これらの部分を開示しない理由について、厚労省側は、労働基準監督官の対応方針が推認される恐れがある「対応情報」や、監督指導の端緒が推認できる恐れのある「端緒情報」などにあたるため、と説明した。裁判官も黒塗りの下に書かれている内容は見られないため、本当にそうした情報にあたるかは前後の文脈などから推測するしかない。

 12カ所のうち記者が注目し…

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