11月16日に岡山県倉敷市のマスカットスタジアムで開かれた県高野連の地区別選抜交流試合。第2試合の東部地区選抜のオーダー表を見て、思わず「おっ」と声が出た。
1番DH・国近泰獅(岡山学芸館、2年)。夏から十数試合見てきて、初めてスコアブックに名前が書けるぞ、と。
「国近ですか? 選手としては何もできませんよ。守れないし投げられないし打てない」。夏の甲子園を前に、佐藤貴博監督はあっさりと言い切った。4月に肩を手術し、全治6カ月。夏のベンチ入りはあきらめていたが、三塁コーチとして背番号15を与えられた。佐藤監督は「むちゃくちゃいいやつで人として信用できる」と理由を語る。
ただ、国近は「全力でプレーできるのにベンチを外れた3年生がいる。複雑な心境だった」と振り返る。
今、自分にできることを全力でやると心に決めた。練習ではサポートメンバーとして率先して動き、試合ではベンチワークの中心になった。
だが、記者としては事情を書けなかった。佐藤監督から「タイブレークやスクイズの機会にはピンチバンターに使いますよ」と聞いていたからだ。実際、国近は打撃練習ではケージに入り、バントだけしていた。「強打は無い」と相手に伝わっていては切り札にならない。自重するしかなかった。
国近は新チームで主将になったが、公式戦では三塁コーチと伝令に専念。11月になってようやく打席に立ったという。
交流試合では3打席で内野ゴロ二つと死球。それでも「久しぶりの試合だったので楽しかった。野球ができる喜びを感じました」。凡打でも笑顔で一塁へ走る姿が印象的だった。
とはいえまだ再起したばかり。新入生が入ってくれば100人近い大所帯をまとめる大役もある。「自分は技術で引っ張るキャプテンではない。プレーができなかった時期の経験をいかして、もう一度甲子園に戻り、目標のベスト8の壁を越えたいです」