明治安田生命保険の会長、根岸秋男さん(66)は「武闘派」だ。上司とも戦った。顧客に支持されない会社は衰退すると信じるからだ。いまでも顧客と営業職員の本音をくみ取ろうと心を砕く。きっかけは、ある営業職員の言葉だった。
「無力感がありました」
現在の明治安田(当時は明治生命保険)に入社して13年、確率や統計をもとに商品設計などを担う専門職アクチュアリーから営業に職種を変えた。専門家として営業部門に情報を伝えても、取り合ってくれなかったからだ。「無力感がありました」。営業の側に行って、アクチュアリーとのかけ橋、双方を結ぶ翻訳者になろうと決める。
1994年、埼玉県の上尾西営業所長に。異動後も「腰かけなら来るな」とも言われたが、そんなつもりは一切なかった。「片道切符」だと思っていた。根性を入れて取り組むと、経験が力になった。周囲も徐々に認め始める。
営業所では、商品がよければ契約は増えると考え、営業職員には商品の仕組みを中心に教える。言動を見ていた幹部の営業職員に言われた。「私たちとお客さまの間に立って指導してください」
スイッチが切り替わった。「頭でっかちの営業の素人が勘違いしていました」。職員と顧客の信頼関係が商品力よりも大切だと気づく。職員と一緒に顧客のもとに行き、双方の真ん中に立って観察するようにした。顧客が何を求めるか。職員は正しく向き合うか。顧客と職員の本音を知ることで、決断に迷わない「胆力」と、自分の理屈を押し付けない「謙虚さ」を磨いたという。
顧客が評価しない組織は堕落していく。その思いを貫いて上司とも戦った「武闘派」だ。勝てなければ、いったん引く。「いつかは自分たちの時代が来る」と、現状打破のアイデアをポケットにしまい込んで。
一気に取り出したのは、2005年に発覚した保険金不払い問題がきっかけだ。2度の行政処分を受ける。企画部長として、支払いの管理態勢を見直すなどの業務改善計画をまとめた。「生き残れるかどうかの瀬戸際で、先輩の役員に気を使っている場合ではありませんでした」
「3年待って」
社長に就いた13年以降も全…