自殺未遂を経験した男女6人の絵画展「絵とビジョンの力 自死からの生還『命の叫び』6人展」が、東京・日本橋で開かれています。主催者は「どの絵もすさまじくパワフル。いま苦しんでいる人に、死ななくていいんだよ、絵は生きる力になるよと伝えたい」と話します。絵に救われた出展者の物語を伝えます。

  • 【主催者からのメッセージ】自殺未遂を経験したから言える「絶対に死ぬな」 専門家に聞く絵の力

 暗く濁った色の衣服を身にまとい、顔は緑色。真っ黄色の目は不気味に見開かれていた。美しく見えたその姿は、自分を死におびきよせる恐ろしい存在だったと気付いた――。

 東山維吹(いぶき)さん(21)が描いた「死を告げる少女」。極度のうつ状態だった高校3年生のころ、白い服の少女に「こっちにおいで」と手招きされた幻視の体験を描いたものだ。幻を見たのは、睡眠薬の大量摂取で4度目の自殺未遂をする直前のことだった。

「死にたい」に理由はない

 幼い頃から常にぼんやり「死にたい」と思っていた。家の中は常に抑圧的で不穏に思え、気分は沈みがちだった。

 高2の時からは不眠で、精神科に通院していた。自殺を試みたことに、決定的な引き金があったわけではない。過去に幸せなことがなかったからきっと未来にもない、だから死ぬ。それだけのことだった。

 初めて自殺を図ったのは高2の冬。処方された睡眠薬を1カ月分ほどため、夜中、自室で赤ワインとともに一気飲みした。しばらくして強烈な吐き気を感じて意識を失い、病院に運ばれた。

4度の自殺未遂 引き留めてくれたのは

 約半年ごとに同様の自死未遂をくり返した。最後は高3の夏。今度こそと、致死量の2倍の睡眠薬を飲みこんだ。

 それなのに、なぜか少し前に偶然聞いてから気に入っていたベートーベンの楽曲を思い出した。

 死ぬ前にもう1回だけ聴きたいな、とふと思った。でも、あれだけの量の薬を飲んだらもう聞けない――。そう気付くと、生まれて初めて死ぬのが怖くなった。

 母親と病院へ向かう間、手がどんどん冷たくなり、幻聴でタイヤの音が人の声に聞こえた。集中治療室(ICU)での治療の末、一命を取り留めた。

 なぜあの日、突然ベートーベンが聴きたくなったのか、今でもよく分からない。ただ、小学校から吹奏楽部に入って続けてきた音楽は、これまでの人生で一番頑張ってきたことだ。そんな音楽が死の瀬戸際で自分の力になってくれたことは、少しうれしい。

 あの日を最後に自死は図っていない。

 今も思い立つと、ふと画用紙に木炭をすべらせることがある。それは心の中で自分と会話しているような時間だという。(黒田早織)

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