レッツ・スタディー!演劇編 佐月愛果さん④

写真・図版
鎌倉・七里ケ浜を訪れたNMB48の「チームN」メンバー。左から3人目、佐月愛果さん ©NMB48

 NMB48メンバーが舞台芸術の魅力を紹介するコラム「NMB48のレッツ・スタディー!」演劇編。舞台歴16年という佐月愛果さん(22)担当シリーズは今回の4回目で最終回となります。

 佐月さんが過ごしたアイドルとしての4年間。宝塚歌劇団のある舞台で聞いたセリフをもとに、激動の日々を振り返ります。

 記事の後半で、読者の方3名様に佐月さんのサイン色紙が抽選で当たる企画のご案内を掲載しています。

「チームN」の仲間と訪れた鎌倉・七里ケ浜

写真・図版
佐月愛果さん=本人提供

 先ごろ、私も所属するNMB48「チームN」のメンバーたちで連れだって、神奈川県鎌倉市の七里ケ浜へお出かけをしました。

 今年5月にリリースされたシングル「これが愛なのか?」に収録されているチームNの楽曲「夏のDestination」の歌詞に七里ケ浜が出てくるんです。思い出の中にある恋の舞台として。

 先輩の石田優美さんや同期(7期生)の平山真衣ちゃんと雑談していて、「せっかくだから、歌の舞台になった場所にみんなで行きたいね」という話になりました。そのあたりからトントン拍子で話が進み、まだ強い日差しが残る9月のある日、江ノ島電鉄(江ノ電)に乗ってみんなで湘南の海をめざしました。

 夕暮れの海は本当にきれいで、浜辺に下りたみんなで大はしゃぎしてしまいました。夕日でオレンジ色に染まったみんなの顔を見つめていると、NMB48に入ってから4年間の、笑いあり涙ありの日々が思い出され、「今、この瞬間が永遠になったらいいのに」という思いが去来しました。

写真・図版
鎌倉・七里ケ浜を訪れたNMB48の「チームN」メンバー。左から2人目、佐月愛果さん ©NMB48

 この「夏のDestination」という曲はなかなか切ない歌なんです。何年も前に別れてしまった恋人のことを今も忘れられずにいる「僕」が、海辺を2人でドライブしていた頃を回想し、思い出にふける……といった感じの曲です。

 歌の振り付けもドライブデートをイメージしたものになっていて、例えばイントロで大きく腕を伸ばす動きは、車を降りて2人で「伸び」をする様子の表現。ほかにも、ハンドルをくるくる回す動作や、車窓にもたれかかるような動きが、振り付けの中で表現されています。

 ♪車の中でどんな話しただろう

 ささいなことでいつも笑ってた気がする……

 これは歌詞の1節ですが、私のアイドル人生もファンの方々との長いドライブのようだったな、とも感じます。時々道端のお店に寄り道をしたり、たまにタイヤがパンクしたり、風を切って一本道を快適に走ったり……。その間、ファンの方々と本当に色々な話をしました。

 その楽しかったドライブも、そろそろDestinationに近づいてきたみたいです。

 大好きだったNMB48に、7期生として加入して5年目。11月28日に、卒業公演を行わせて頂き、NMB48を卒業させて頂く運びとなりました。

「あの舞台に立ちたい」 NMB48に入ってかなえられた夢

 今まで色々なお仕事をさせて頂きましたが、朝日新聞の「レッツ・スタディー!」小論文編は、まだ加入して間もない研究生の頃、初めて頂いた1人でのお仕事でした。

 幼い頃から、頭の中にある言葉を文章に起こすことは苦手ではありつつとても好きで、文字を書くことも好きだったので、このお話を頂いたときはとてもうれしかったのを覚えています。それから数年が経ち、この「演劇編」を担当させて頂くことになりました。

 大好きな宝塚歌劇団の作品についても書かせて頂きました。「言葉」がテーマの作品を「言葉」でつづることに緊張もしましたが、とてもうれしく得がたい経験でした。

 私は6歳の頃、初めてミュージカルの舞台に立ち、そこで舞台の楽しさを知りました。

 まだ自分の夢も意思もふわふわしていましたが、その頃から、いつか梅田芸術劇場(大阪・梅田)の舞台に役者として立ちたいという夢を持ち、初舞台から13年、NMB48に加入してからは初めての舞台で、その梅田芸術劇場に役者として立つという夢をかなえさせて頂きました。

 ほかにも、憧れていた主演というお役を頂いたり、東京で舞台をさせて頂いたり、NMB48に加入しなければかなわなかったであろう舞台の夢をたくさん実現させて頂きました。

悔しいこともたくさんあった…けれど

 でも、NMB48の一員として、悔しいこともたくさんありました。

 お披露目で立たせて頂いた2番手のポジション。その約2カ月後に迎えた、研究生公演の初日では6番手でした。

 「ファンのみなさまを幻滅させてしまうのではないか」と思うと、初日の幕が開くのがとても怖かったです。

 同期生の昇格を見送り、正規メンバーとして活動している背中を、研究生として後ろから見る。その現実が、景色が苦しくて、「どうして私はそこに立てていないんだろう」と考え、自分に足りないものと向き合うことすら嫌になったこともありました。

 ですが、どんなときもファンのみなさまはそばにいて、こんな私を支えて下さいました。私がどこにいても見つけ、客席からペンライトやうちわ、声援で応援して下さいました。

 ファンのみなさまがいて下さらなかったら、しっかりとステージに立ってアイドルをすることもできませんでした。

 NMB48のグループ内ユニット「きゅんmart」の一員として臨んだ、初めてのMV撮影。NMB48のユニット対抗戦「ナンバトル」で優勝したことによって手にした特典でした。ファンのみなさまから頂いた、大きすぎるプレゼントです。

 そして、様々な場所で開催される握手会やライブなどのイベントに駆けつけて下さるファンのみなさま。決して当たり前のことではありません。愛のあるお言葉や、お気持ちのこもったお手紙などもたくさんちょうだいし、日々励まされていました。ありきたりな言葉ですが、心から感謝の気持ちでいっぱいです。

 どうすればこの感謝の気持ちが伝わるか……。でも大きすぎて、きっと伝わりきりません。

つらいことがあっても常に笑顔…アイドルは「うそつき」?

 もちろん悔しいことばかりではなく、楽しいこと、うれしいこともたくさんありました。

 「佐月チームBⅡ」のキャプテンを任せて頂いたこともその一つです。もちろん苦しいこともたくさんありましたが、今思えば、全てがいとおしい思い出です。

 お披露目の日、初めて劇場に立たせて頂いたときの光景、初めての大阪城ホールで目にした風景、初めてセンターに立たせて頂いたときの、ステージの真ん中から見る景色。全て目に焼き付いていて、一生忘れることはありません。

 11月28日、私のアイドル人生は終わります。

 どれだけつらいことがあっても、どれだけ苦しいことがあっても、全てを隠していつも笑顔でステージに立ち続けるアイドルという存在は、うそつきなのかも知れないと私は思います。

 ですが、アイドルとしてファンの方々の前に立っている時間、そしてステージに立っている時間だけは全てを忘れさせてくれる。そこで見せる笑顔は、真実のものでもあるのです。

 私が先日まで観劇に通っていた、宝塚歌劇団花組公演の「エンジェリックライ」に、「真実の大嘘(うそ)」というセリフがあります。

 アイドルとファンという「つくりもの」の関係性の中に、真実の思いや本当の絆が生まれることがある。ずっとフィクションだと思っていたものが、いつの間にか真実になっていることがある。

 私のアイドル人生は「真実の大嘘」でした。

 私の「真実の大嘘」を見守って下さっていた全てのみなさま、本当にありがとうございました。またお目にかかれる日を、心待ちにしております。

     ◇

【3名様に】佐月さんのサイン色紙プレゼント

写真・図版
佐月愛果さんのサイン色紙

 読者の方の中から抽選で3名…

共有