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今夏の全国高校野球選手権兵庫大会3回戦で救援した神戸弘陵の村上泰斗投手=2024年7月15日、ほっともっと神戸、森直由撮影
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 10月24日。今年もプロ野球のドラフト会議が開かれ、育成選手も含めて123人が指名を受けました。

 そのなかに、会議前から取材に行くと決めていた選手がいました。ソフトバンクから1位指名を受けた神戸弘陵(兵庫)の村上泰斗投手です。

 中学までは捕手。投手経験は高校の2年半だけ。小学校4年から投手を始めた僕の常識では、信じられないスピード感です。どうやってプロから1位指名を受けるほどの投手に成長できたのでしょうか。

 2日後の26日、神戸市北区のグラウンドに会いに行きました。

 初対面で感心したのが、まっすぐな受け答えです。ドラフト会議後は取材に少し疲れていたそうですが、この日も僕の目を見て質問に一つずつ丁寧に答えてくれました。

 投手転向のきっかけは、岡本博公監督の勧めだそうです。身体能力の高さと強く腕を振れるところが評価され、本人も前向きにコンバートを決意したそうです。

 しかし、順風満帆とはいきませんでした。「ただ球が速いだけだった」と村上投手。変化球は一からのスタート。2年春の大会でベンチ入りを果たしましたが、制球には苦労し、走者を出すとさらにコントロールが乱れ、悪循環に。しばらくは、壁の連続でした。

 どうやって乗り越えたのか。岡本監督が村上投手の二つの魅力を教えてくれました。「素直で研究熱心なところと、チャレンジを恐れないところ。神戸弘陵野球部の『変化を恐れず、色々なことにチャレンジする』という指導方針に合っていたのかなと思います」。壁から逃げずに一つずつ克服してきたのでしょう。成長が加速したのは2年春の大会後。「目標をプロ入りに設定し、さらに意識が変わった」と監督は振り返ります。

 村上投手のストイックさが伝わるエピソードがありました。寮生活を送る村上投手は、外出用の私服を寮の自室にほとんど持ち込まなかったそうです。時間があれば、YouTubeで変化球の投げ方を研究。カーブは山本由伸投手(大リーグ・ドジャース)、フォークは千賀滉大投手(同・メッツ)の投げ方を参考にして磨いてきたそうです。

 今夏の兵庫大会は3回戦で敗退しましたが、直球は最速153キロを記録するまでに成長しました。そして、目標に決めたプロ入りをドラフト1位という形でつかみました。

 村上投手は「藤川球児さんのような直球」をめざし、ゆくゆくは「メジャーにいきたい」と言います。彼が言うと、本当に実現できそうな気がしてきます。

 僕は未経験からの「チャレンジ」を率直にリスペクトしています。日本ハムのチームメートだった上沢直之投手は、小学校のころはサッカー少年。中学から野球を始めて、今シーズンは大リーグの舞台にも立ちました。大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手は、プロ入りの際に周囲から懐疑的な声もあった投打の二刀流に挑み続け、世界でも「Two Way(二刀流)」でトップクラスの選手になりました。

 こうしたチャレンジの成功は、本人の覚悟と努力があってこそですが、周囲の理解も必要です。「できっこない」と決めつけていたら、上沢投手も大谷選手もこれほどの活躍を見せていなかったかもしれないし、村上投手のドラフト1位指名も起きえなかったかもしれません。

 彼らのように、臆せずチャレンジする球児が増えてほしい。そういう機運が高まってくれたら、野球界はさらに魅力的になると思います。

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