児童生徒の自殺者数が一昨年に過去最多となり、その後も高止まりするなか、タブレット端末を活用し学校でリスクを把握する取り組みが広がっている。その一つ「RAMPS(ランプス)」の開発者の東京大大学院・北川裕子特任助教(38)に、子どもの心の危機を察知することについて話を聞いた。
――心の危機を察知するツール「RAMPS」をタブレット端末で使う利点は。
スマートフォンを含め、生徒は端末の操作に慣れているので、対面で質問されるより構えずに本音を答えてくれると感じます。機械は無機質に淡々と質問を投げかけるので、生徒も本当のところを答えやすい面があります。
流れとしては、1次検査で画面に表示される11項目の質問に対し子どもが1人で答えます。その結果から必要と判定されたら、2次検査でより詳しい質問を保健室の養護教諭や担任が子どもに尋ね、リスクの高さを判定します。
子どもが心の状態を出しやすいように、いくつもの工夫をしました。答えやすい睡眠や食欲などの話題から入った後、精神面の不調を聞いていきます。もちろん、体の不調も大事なサインです。「生きていても仕方がないと考えたことは?」「自分を傷つけたことは?」などの設問が続き、相談できる人の人数を聞きます。質問ごとに画面が変わり、選択肢を指で押す方式なので次々と回答でき、押すまでの時間も把握して迷ったかどうかも分かります。
2次検査では、死にたい気持ちや死のうとした経験、具体的な自殺の準備について尋ねます。
――ストレートに聞くのはなぜですか。
このプログラムを開発する前の研究で、中高生2万人にアンケートをして解析した結果、「本気で死にたいと思っているような、支援が必要な子どもほど助けを求めない」という傾向が分かりました。相談してくるのを大人が待つ姿勢では、危機を見逃しかねないのです。
私も実際に体験したことがあります。あるとき、元気そうな中学生の男子生徒が、「生きていても仕方がないと思う」という質問に「はい」と答え、2次検査で自殺未遂歴について話してくれたことがありました。「今まで聞かれたことがなかった。『死にたい』とかは聞かれないと言えない」という彼の言葉はとても重要だと感じました。
「自殺のことを聞くと、死にたい気持ちを強めてしまわないか」と心配する声が多いですが、そういう研究結果はありません。「学校で自殺に関わる話はしにくい」という声に対しては、むしろ率直に尋ねることが「話しても良い」という生徒へのメッセージになる点を伝えます。2次検査での質問は決まっているので、教員も迷わず尋ねやすいと好評です。
――自殺未遂歴がある人の危険性は?
自殺を予測する最も強い要因の一つは過去の自殺未遂歴で、その行為は繰り返される傾向にあることが知られています。10代が対象の調査では、「自殺未遂後の6カ月以内が自殺による死亡リスクが高い」という結果が出ています。
一方で、自殺を試みた後に救命された人が対象の研究では、90%が少なくとも1年後に生存しているという報告もあります。危機を周りが覚知し、ケアにつなげたことが「ターニングポイント」になったのではと考察されています。
ある学校でRAMPSを全生徒に実施したところ、「自宅で死のうとしたが失敗し、いま生きている」と答えた生徒がいました。
RAMPSへの回答と面接で…