現場へ! 運ぶ(1)
木製クレート(輸送箱)の板を外していくと、優美な曲線を持つ白い石像が現れた。
神戸市立博物館で今夏開かれた「テルマエ展」の目玉のひとつ、イタリアのナポリ国立考古学博物館所蔵の「恥じらいのヴィーナス」。5人がかりで台車に移し、展示台に設置していく。
別の場所では慎重な手つきで指輪を展示台に設置し、粘着テープで展示台のほこりを取り除く。6月中旬、ヤマト運輸の美術品輸送専門スタッフが、東京から展示品を会場に運び込んでいた。
- 連載「現場へ!」
準備に3カ月 梱包材も手作りで
それぞれに唯一無二の価値があり、絵画、彫刻、陶磁器など素材も形状もサイズも様々な美術品の輸送には、セキュリティー対策や温湿度管理が求められる。専門的な知識や技術が必要なため、物流大手は専門部署を置く。
業務は単に美術品を運ぶだけではない。展覧会なら2~3カ月前から各地の所蔵先に赴いて作品のサイズや材質、搬出ルートなどを調べる。その結果をもとに、個々の美術品ごとにクレートや包装材を作る。包装材は真綿を和紙でくるんだものを手作りしたり、ウレタンを組み合わせたりし、クレートは作品のサイズに応じて木材を組み合わせるなどして作る。梱包(こんぽう)した美術品は、空調設備を備え、振動を和らげる対策がされた専用トラックで運び、展覧会の会場では作品の設置まで担う。
通常なら展示ケース越しなど…