奈良市の小学1年生の有山楓(かえで)さん(当時7)が誘拐、殺害された事件から17日で20年となった。父・茂樹さんが手記を公表し、その胸の内を明かした。
- 20年前、あの子は棺の中で眠っていた 校長の使命感と同級生の選択
ことしで楓が被害に遭って20年がたちます。よく節目と言われますが、悲しみや後悔の思いは時間が過ぎようとも変わることはありません。警察署で再会した楓の表情、家の中の私たち家族へ向けられたフラッシュの嵐は今でも鮮明に記憶しているのに笑顔いっぱいの楓の写真を見て楓の言葉は思い出せても、元気な声が時間とともに頭の中に響かなくなってきました。当時の悲しみとは違い時間の経過が新たな悲しみや苦しみを生み出してきます。
楓がいない20年間、私は前に進まなければならないと必死にもがいてきましたが、一歩が本当に重く感じる毎日でした。それでも楓の生きた7年間だけでなく、今も楓への思いを忘れず、二度と悲しい事件を起こさない取り組みを継続してくれている多くの方に支えてもらい、気持ちだけは前を向いて進んでこられました。この20年が大切な時間であったと思えるのも、きっと楓が今も私のそばにいて、思いや縁をつないでくれたからだと思っています。
残された者の苦しみは言い表せません。思いを出すことも出さないことも本当に辛いものです。このような思いを誰にもしてほしくありません。行政、地域、学校による安全への取り組みが続くことを心より願います。
有山茂樹
子ども守るために 地域、学校、専門家など立場超えて議論
子どもたちを守るために必要なことは何か。事件から20年を経て、浮かび上がる見守りの課題についてどう対応していくのか。奈良市などが「子ども安全の日の集い」を17日に開き、専門家らが話し合った。
集いには、学校関係者や一般の来場者など約160人が参加した。
冒頭、楓さんに黙禱(もくとう)が捧げられた。奈良市の仲川げん市長は、「20年という節目だが、17日を決して忘れない。子どもたちをどのように守るかを皆さんとともに考えたい」と話し、奈良県警奈良署の小畑浩康署長は「安全安心は警察だけでは達成できない。地域の皆さまの活動を継続していただき、警察との連携、協力をお願いしたい」と呼びかけた。
続くパネルディスカッションでは、保護者、学校、地域、警察、行政の代表者が参加。それぞれの立場で、子どもたちを犯罪から守るためにできることについて意見を出し合った。
現在の課題として挙げられたのが、防犯ボランティアの高齢化だ。全国の防犯ボランティア団体の構成員の約7割が60歳以上というデータが示され、実際に奈良市のならやま中学校区で見守りなどに携わる池永啓子・同区少年指導協議会会長は、「しんどいので引退したいという声も出ている」と報告した。
また、今後取り組むべきことについて聞かれると、学校代表の阪田真一教諭(登美ケ丘小学校生徒指導主任)は「防犯マップの作成など、保護者や地域で連携できることをしていきたい」と話した。
進行を務めた奈良学園大学の松井典夫教授は、2001年に児童8人が殺害される事件が起きた大阪教育大付属池田小学校(大阪府池田市)で、学校安全主任として「安全科」の授業創設に関わった。議論を踏まえ、集団登下校の重要性をそれぞれの立場が改めて認識し、見守りを協働で行うことが大切だと説明。「有効性と持続性を考えて、安全への取り組みを継続することが非常に重要だ」と訴えた。(周毅愷)