東京・池袋で2019年、車が暴走した事故で妻子を失った松永拓也さん(38)が、精神科医の桑山紀彦さん(61)と対談し、事故後の5年間を振り返りました。松永さんは「2人の命を無駄にしたくない」と懸命に交通事故防止活動を続けながら、立ち上がれないほど体調を崩すこともあったことを明かしました。
事故から5年を機に松永さんを取り上げた朝日新聞の記事を桑山さんが読み、対談が実現。対談は6月に東京都内で行われました。
内容を3回に分けて紹介します。今回は最終回です。
- 【初回】一周忌に気づいた「事故に向き合わぬ自分」
- 【2回目】抜け落ちた記憶、泣くことで取り戻した 避けた1年の先に
判決で見た横顔 「なぜここにいるんだろう」
桑山 加害者に対する今の怒りはどうですか?
松永 許せているわけではないですが、今は怒りとは違う感情です。裁判中は後悔したくないから心を鬼にして闘いました。でも彼はもう法律で裁かれて、真摯(しんし)に面会にも応じてくれた。意図を理解して、再発防止の言葉も語ってくれた。今は憎しみとも違う感情です。
桑山 最近そうなった? 最初から?
松永 裁判中は怒りだけにしました。過失ではあるが、許せないから裁判で闘った。でも、真菜と莉子の顔が浮かぶんです。真菜は愛にあふれた人でしたから、怒りや憎しみに満ちた自分をどう思うだろうって、仏壇に手を合わせるときに考えてしまう。
だから裁判を迎える前日に仏壇に手を合わせて「こんなお父さんは見たくないかもしれないけど、後悔したくないから心を鬼にして闘うよ」と言いました。
でも、判決で彼の横顔を見ていると、すごくむなしくなって。2人は戻ってこないのに、なぜ自分はこんなところにいるんだろう。なぜ彼はこんなところに立っているんだろうと。お互い遺族にも加害者にもならずに済む未来はなかったのかと。交通事故さえ起きなければこうはなっていなかったと思うと、自分は次のフェーズを考えたいと思うようになりました。
最近、事故の加害者と対談したんです。加害者の体験や言葉を無駄にしたくないと思ったので。後悔したくなかったし、やってよかったと思っています。彼の言葉を伝えることで、社会が少しでも良くなる方に行くのではないかと思う。2人の命を無駄にしたくないし、自分の経験も無駄にしたくない。
桑山 加害者の謝罪は必要ですか?
松永さん「正直言って」
松永 私は正直、謝罪されて…