【ニュートンから】新紙幣のテクノロジー(1)
20年ぶりに紙幣が新しくなった。傾けると肖像の顔の向きが変わる世界初の3Dホログラムをはじめとした最先端の偽造防止技術が搭載された。日本の紙幣は,偽造のしにくさで世界の頂点をきわめている。ただし,新紙幣に使われている偽造防止技術は,くわしい情報が公開されておらずわからないことも多い。本記事では,科学的な知識の応用や監修者への取材をもとに,新紙幣で使われた偽造防止技術の推定を試みた。新紙幣を片手に,高度な印刷文化をのぞいてみよう。
2024年7月3日,「新紙幣」の発行がはじまった。もう手にとって,ながめた人もいるかもしれない。日本の紙幣(正式名称は「日本銀行券」)は,国立印刷局が製造し,国の中央銀行である日本銀行が発行している。日本銀行は1885年に,七福神の大黒天がえがかれた4種類の紙幣をはじめて発行した。以後,日本銀行は50種類以上の紙幣を発行している。
前回の2004年から20年ぶりに発行された新紙幣は,デザインが一新された。新一万円札には実業家の渋沢栄一(1840~1931)の肖像と東京駅の図柄が採用された。新五千円札には教育者の津田梅子(1864~1929)と藤の花,新千円札は医学者の北里柴三郎(1853~1931)と,葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」が採用された。
10種類以上の高度な偽造防止技術
新紙幣の最大の見どころは,世界最先端の偽造防止技術が取り入れられたことだ。紙幣の刷新は国にとって非常に大事なプロジェクトだ。偽造紙幣が大量に出まわると,国が経済的な混乱におちいることもある。どの国においても,紙幣はつねにその時代の最先端の偽造防止技術が導入される。
日本もその例外ではない。とくに日本の新紙幣には,ほかの国の紙幣では類を見ないような超高度な偽造防止技術が何種類も使われている。この記事では,新紙幣に使われた偽造防止技術をくわしく紹介しよう。現在研究開発が進む最先端の偽造防止技術や未来の紙幣に使われるかもしれない偽造防止技術も紹介する。
ただし,1点,あらかじめこ…