トンカツ定食の主役は豚肉です。日本の養豚農家は2014年の5270戸から今年は3130戸と減っており、飼養頭数も約74万頭減って、約880万頭になっています。養豚をめぐる状況を、神奈川県に訪ねました。

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子豚の数を数える農場の従業員=日本ハム提供

 「生き物を育てるのだから、エサは不可欠。その価格が高くなって、養豚農家は厳しさが増すばかりです」。神奈川県養豚協会の金井睦・常務理事は話す。

 現在、同協会には33戸が加盟する。企業や家族経営と規模は様々だが会員数は減少傾向で、経営環境の厳しさ、後継者不足などで、年1戸程度、廃業があるという。

膨らむコスト、経営を圧迫

 豚に与えるのはトウモロコシなどを主にした配合飼料だ。輸入に頼っており、ウクライナ侵攻を契機に相場が高騰、円安の影響も大きく、最近ではやや落ち着いたものの、4年前に比べて価格が1.6倍ぐらいになったまま高止まりしているという。

 農林水産省の統計でも、豚を出荷まで育てるのにかかる費用は最新の2022年で1頭あたり4万3540円。前年より14.9%増えた。うち飼料費は2万9315円で、前年より5180円(21.5%)増え、全体を押し上げている。

 豚肉1キロを得るには、飼料が2.5キロから3キロ必要と言われる。「なるべく食べ残しを出さないようエサのやり方を工夫し、パンのくずや製麺の残りといった食品企業からの残渣(ざんさ)をエサに取り入れるところもありますが、集める手間などの課題もあり、根本的な解決にはなりません」

 他にも資材費や光熱費、人件費も上昇しており、経営を圧迫していると金井さんは指摘する。「首都圏の神奈川は他県に比べて人件費が高く、地代もかかります」。住宅地が近い分、臭気など環境対策のコストもかかるのも、この地域特有の事情だ。

 大規模な生産者にとっても生産費上昇の事情は共通している。

 日本ハムグループは、国内の直営農場から年間57万7千頭を出荷する国内最大規模の養豚事業者の顔も持つ。1.5キロで生まれた子豚を180日かけて120キロに育てて出荷する。その間に豚は350キロのエサを食べる。

 「無駄はできるだけ取り除いているが経費削減には限りがある。生産性を上げ安定して豚肉を供給するには、生まれた子豚を健康に育て、より大きな豚を数多く出荷するのが大事」と担当者。

値上がり続く豚肉価格

 一方、値上がりが続く国産豚肉の卸売価格は、今夏にさらに高騰している。農水省によると、東京と大阪の中央卸売市場における「極上・上」規格の豚枝肉平均価格は、22、23年度と過去最高を更新。今年度4月から9月はさらに上昇して1キロ724円を記録した。

 ただ、農家を直撃している生産費高騰を反映して価格が上がったわけではなく、理由は別にある。

 農水省によると、一つは猛暑…

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