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ドナルド・トランプ氏のグッズ(左)とカマラ・ハリス氏のグッズ=それぞれの公式サイトから

Re:Ron連載「スワイプされる未来 スマホ文化考」(第5回)

 2024年11月5日は、アメリカ大統領選挙の投票日。中間選挙はあるにせよ、大統領選挙そのものは4年に1度しかない。冷戦下の二極化時代は終わったが、アメリカ一強ではもはやなく、多極化の時代が訪れたと指摘する論者は何十年も前からいる。しかし、今なおアメリカの影響力はすさまじく、そのトップを選ぶ機会が世界中の注目を集めている。

 アメリカの政局はその道の専門家がいるので、政党内の勢力図や州ごとのキャンペーン展開などは扱わない。むしろここでは、ネット文化論らしく「政治的ミーム」と「ECサイトのグッズ展開」の観点から、2024年の大統領選挙に伴走してみよう。

 この夏、副大統領のカマラ・ハリスの政治とは直接的に関係のないフレーズが話題になった。ハリスの母親がハリスを含む子どもに対して、「ココナツの木から落ちたとでも思っているの?」と言ったことがあるらしい。その思い出話を語ったハリスが、思わず自分で爆笑している短い映像が、各種SNSをものすごい速度で駆け巡った。

 謎のココナツツリー小話をチャーミングだと感じた人が多かったのか、「カマラ・ハリス」と「ココナツ」の結びつきは即座に「ミーム化」し、多数の派生コンテンツが生まれた。ミームは、ネット上で拡散して社会現象化し、お約束として定着したイメージや言葉のパターンを指すものと理解すればいい。ハリス支持者の一部は、このミーム化の流れに乗って木とココナツの実を示す絵文字を用い、自分たちがハリスとともにあることをSNSでポップに表明した。

 政治とインターネットの組み合わせは、巨大な政治資金や陰謀論にデマ、論戦という名のこき下ろし、政治家の不正やスキャンダルといった暗いイメージを帯びていたこともあり、国内外のメディアは喜々として飛びついた。政治におけるポップで新しいミームの登場に驚いたのである。

 取り上げたメディアを一部だけ挙げると、Forbes、CBS、The New York Times、Fox、AP News、The Gurdian、BBC、The India Today、日経新聞、NHKなど。もちろん、朝日新聞でも取り上げられている。かように、世界はハリスによる新しいポップウイルス(new viral)の登場を歓迎したのである。

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ボーカロイドの象徴と「持ち物戦争」

 このニュースをテレビで見かけたとき私が思い出したのは、ボーカロイド(ヤマハの合成音声技術や、それに端を発する大衆文化)の「持ち物戦争」である。これは、初音ミクにとっての「ネギ」、巡音ルカにとっての「タコ」のように、ボーカロイドごとの「象徴」が決まっていくプロセスを指している。

 元々、ボーカロイドのパッケージ商品にはイラストと最低限の情報(身長やイメージカラー、元になる音声の提供者など)しか描かれておらず、何かのシンボルと結びついてはいない。しかし、初音ミクを使用したある楽曲の映像にネギを印象的に使用したものがあり、そのミームを面白がった様々なクリエーターや視聴者が、そのミームに感染して作品や感想を広げていくことで、次第に「初音ミクといえばネギ」という連想が定着していく。結果として初音ミクは、意味もなくネギとともに描かれるようになる。これが持ち物戦争である。

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アニメエキスポに北中米から集まったコスプレ姿の初音ミクのファンたち。ネギを持っている人も=2011年7月、米ロサンゼルス、安冨良弘撮影

 なぜ持ち物「戦争」と呼ばれるのか。それは持ち物の決定が、再生数やバズ、リアクション、後続するコンテンツに依存している、つまり量的承認に基づいているからだ。自分の感想や投稿する派生コンテンツが、持ち物の決定につながると想像すると心躍るだろうし、自分の望むものがキャラクターの象徴になってほしいという心理も理解できる。その過程で「キャラが立つ」可能性もある。持ち物戦争は、一大イベントなのだ。

 「初音ミクといえばネギ」と…

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