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生まれつき腎不全があり、妊娠37週で生まれた直後の男の子=家族提供

胎児の腎不全【前編】

 「赤ちゃん、おしっこが出ていないようです」

 東京都の女性(50)は、妊娠がわかって2カ月ほどの2015年4月、国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の医師から告げられた。

 もともと通っていた産婦人科クリニックのエコー(超音波)検査で、胎児のおなかに水のたまった袋のようなものが見つかり、紹介された成育医療研究センターで詳しい検査を受けた。

 その後、何度か検査を受ける中で、腎臓から尿を出す経路に水がたまる「水腎症」と言われた。エコー検査で比較的よくみつかり、自然に解消することもある。ただ、この子の場合は経路だけでなく、腎臓そのものにも問題がありそうだった。

 妊娠26週の7月、二つある胎児の腎臓が十分に機能していないことがわかった。「腎低形成・異形成」という状態で、腎臓が小さく、つくりも通常と違う部分があった。

 胎児の腎臓は、妊娠9週ごろから尿をつくりはじめる。妊娠中期に入る16週以降、子宮内の羊水は、胎児の尿が主な成分になっていく。

 羊水の中で胎児はぷかぷか浮かび、外の衝撃から守られる。母親のおなかの中で体勢も変えやすい。

 羊水は胎児の肺の発達にも欠かせない。羊水を飲んで肺に取り込み、はき出して呼吸の練習をする。羊水が少ないと肺が十分に育たない。生まれてすぐに呼吸困難になることがある。

すぐ亡くなってしまうかも 突きつけられる現実

 「生まれることができないかもしれないし、生まれても、すぐ亡くなってしまうかもしれない」

 医師の説明を、女性は夫(54)と一緒に何度も聞いた。耳をふさぎたくなることばかりだった。

 胎児は尿がまったく出ていないというわけではなく、受診のたび、羊水が増えていると言われれば喜び、減っていると言われれば落ち込んだ。病院にいる他の妊婦のおなかは大きくなっているのに、自分のおなかは羊水が少ないからかあまり膨らまない。現実を突きつけられるようだった。

 人工妊娠中絶も選択肢の一つとなるが、夫婦にその考えはなかった。エコー検査の画像で、胎児がまばたきをしたり口をぱくぱく動かしたりする様子を見ていた。心臓も力強く動いている。

 「この子の生きる力にかけよう」

 妊娠37週の10月、帝王切開で男の子が生まれた。

 産声をあげないことも覚悟し…

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