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兄の良太さんの遺影とともに、毎年訪れていたひまわり畑に立つさとう周太さん=2021年7月25日、栃木県野木町、佐藤牧子さん提供
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 ダウン症の33歳が、天国の兄に思いを寄せて描いた風景画の個展「ぼくの感じた世界」が11日から東京都中央区八重洲のギャラリー「T―BOX」で開かれる。淡い色と柔らかなタッチで描かれた25点が展示される。

 描いたのは栃木県栃木市のレストランで働くさとう周太さん。母の佐藤牧子さん(63)にすすめられ、コロナ禍の2020年に「臨床美術」のレッスンを受け、絵を描き始めた。医療や福祉に美術の力を生かすアートセラピーの一種で、幼い頃から美術館に行くことが多かった周太さんは、すぐにのめり込んだ。

 「ひまわり天国」と題した1枚は、毎年夏に兄の良太さんと一緒に訪れた栃木県野木町のひまわり畑をイメージした。最後に一緒に訪れた19年は時期が遅く枯れてしまっていたため「来年はきれいなひまわりを見に来よう」と話していた。

 ただ、その願いはかなわなかった。翌年、横浜市で銀行員として働いていた良太さんは娘にミルクをあげた後、就寝中に突然亡くなった。突発性の不整脈だったが、詳しい死因は分からなかった。

 周太さんは、4歳年上の良太さんのことが大好きだった。小学生のときに陸上の全国大会で優勝するなどスポーツ万能だった良太さんは、幼い頃から周太さんのことを気に掛け、運動会や卒業式には、自分の学校や仕事を休んで駆けつけてくれた。

 葬儀の日。それまで泣かずに我慢していた周太さんは、せきを切ったように泣いた。良太さんの遺体を見送った後、斎場の待合室から見えた空は、1年後に「思い出の空」として描いた。

 「周太は言葉は少ないですが、感受性が豊か。大好きなお兄ちゃんを失った悲しみは簡単には消えませんが、絵を描くことが慰めになっていると思います」と牧子さんは話す。

 展示は11日から15日までで、11月末には栃木市でも個展を開く。初日は、周太さんと牧子さん、周太さんの叔父で日本臨床美術協会元副理事で牧師の関根一夫さん、画家のフルイミエコさんによるトークショーも開かれる。「思い出の空」以外の作品は販売もする。問い合わせは「T―BOX」(03・5200・5201)へ。(関田航)

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