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パリで2024年7月26日に行われた五輪開会式でのパフォーマンス=国際オリンピック委員会のユーチューブから

 7月26日のパリ五輪開会式で、性的少数者のDJ、歌手らが登場した場面がキリストと弟子を描いたレオナルド・ダビンチの「最後の晩餐(ばんさん)」をパロディー化したとして、フランス内外のカトリック関係者や右翼政治家の反発を招きました。上野景文・元駐バチカン大使は、宗教が社会や政治の分断につながる現象について「欧州と米国では様相が異なる」と語ります。

 ――パリ五輪開会式の演出を巡る混乱をどうみましたか。

 西洋圏では、大まかになりますが、「神様を捨てた人」と「神を敬う人」という新旧の文明観の違いが根底にあります。両派の主張のギャップが、中絶や性的少数者、銃規制などの問題で先鋭的に表れます。

 特にフランスでは新勢力が強く、宗教は私的空間に押し込め、公共の場には登場させないという「ライシテ」(政教分離の原則)の流れがあります。1905年に成立した政教分離法に盛り込まれています。18世紀末のフランス革命を踏まえ、キリスト中心の世界観から、人間中心の「啓蒙(けいもう)思想教」に変化しました。中絶問題では憲法で権利を保障しています。

 五輪開会式の演出は、こうしたリベラルな人たちの持ち味がいかんなく発揮されたものでした。伝統派、保守派の人たちは「ウォーク(急進左派)のプロパガンダだ」と強く反発しました。

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