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館内に飾られている歌舞伎の場面を表現した「組上燈籠絵(くみあげどうろうえ)」と司書の佐々木絵理さん=東京・築地の松竹大谷図書館、山口宏子撮影
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 歌舞伎座や新橋演舞場の近くにある演劇・映画専門の「松竹大谷図書館」(東京都中央区築地)。そこには、江戸の芝居小屋から現代のアニメやゲームまで、多彩なエンターテインメントがぎゅぎゅっと詰まった魅惑の世界が――。司書の佐々木絵理さんに紹介してもらいました。

リレーおぴにおん 「集まれば」

 松竹大谷図書館は、松竹創業者の一人、大谷竹次郎(1877~1969)の発案で、1958年に開館しました。現在は公益財団法人で、50万点を超える資料を収蔵しています。

 閉架式ですが、どなたでも、無料で利用できます。一部の資料を除いて予約も不要。この夏ホームページをリニューアルし、館外から検索できるデジタルアーカイブの充実も図っています。

古典もゲーム原作歌舞伎も 台本ずらり

 演劇・映画の会社が母体なので、現場の生の資料が集まっているのが大きな特長です。市販されていない舞台や映画の台本、パンフレット、写真などが多数あります。歴史に名高い名作も、最新作も、同じように書架に並んでいる様子は壮観です。

 例えば、古典歌舞伎「義経千本桜」は頻繁に上演されますが、同じ作品でもカットされる部分やせりふが少しずつ変わり、台本は公演ごとに作られます。書庫にはそれらが集まり、書庫の一角が「千本桜」で埋まっているほどです。

 研究者やスタッフの利用が多いですが、演じる参考にしようと、古い台本や先輩の資料を調べに熱心に通う俳優もいます。演劇好きの方からの、ごひいきの役者さんが出演した「○年○月公演の台本と筋書(パンフレット)を見たい」といった要望に応えることもできます。

 最近は、「刀剣乱舞」や「ファイナルファンタジー」「ルパン三世」などを原作にした新作歌舞伎も人気を集めています。そうした舞台の台本を閲覧しに、ゲームやアニメファンも訪れています。もちろんアニメ映画の台本もたくさんあります。

 映画の台本は、完成までに書き直しを重ねるので、「初稿」から「決定稿」まで何冊も残ります。脚本家を目指す人が、その改稿の過程を追って勉強している姿も目にします。

 そうした台本やパンフレットなどは、書架に立てて時間がたつと変形やゆがみが生じ、傷みが進みます。それを防ぐためにスタッフ手作りの保存カバーを付けて保管しています。

大劇作家お手製のスクラップブックも大量に

 演劇・映画関係者から寄贈された資料も数多く収蔵されています。

 「王将」などで知られる劇作家、北條秀司(1902~96)が作品ごとに作ったスクラップブックなど約600点もその一つです。創作の資料、上演の記録、写真、新聞・雑誌の記事や劇評、俳優からの手紙などがまとめられています。

 北條さんは歌舞伎や新派、新国劇などで多くの名作を残し、演出も手掛け、演劇界では「天皇」と呼ばれたほどの大御所ですが、こまごました記事の切り抜きも自身でしていたそうです。厳しい評も残らずスクラップし、一方で、おそらく読んで気に入ったということでしょう、○が書き添えられた記事もあります。

 作家の息づかいも感じられるこの貴重な資料群をよい状態で保存し、未来に伝えるために、23日までクラウドファンディングを実施しています。館内閲覧室では「初展示!劇作家・北條秀司の貴重資料たち」という特別企画展示も開催中です(30日まで)。

 ここ10年ほど、貴重な資料…

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