A-stories「タブーなき買収」#5
かつて「敵対的買収」と呼ばれ、敬遠された企業買収が増えています。買い取り価格の高騰やネガティブキャンペーン、横やり争奪戦、全株売り抜け。食うか食われるか、タブーなき買収の時代の幕が開こうとしています。
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同意しようとしまいと買収に踏み切る――。旧村上ファンド代表の村上世彰が迫った。相手は「ブルックスブラザーズ」「ニューヨーカー」などを展開するアパレルのダイドーリミテッドの経営陣だ。
「不動産など多くの資産を持っている会社が、なぜ10年以上も赤字のまま放置されていたのか」と村上は憤る。
それでも6月中旬、株式公開買い付け(TOB)を突きつけたのは「争いごとはもうやめよう」との思いからだ。
11期連続で営業赤字と業績不振のダイドーは迷走が続く。6月27日の株主総会は会社提案の取締役候補に加え、投資ファンド、ストラテジックキャピタル(SC)提案の3人も可決された。
混乱はいったん収束すると思われたが、村上の「TOB宣言」が波紋を広げていくことになる。
「村上さんにTOBする、と言われている」
ダイドー会長の山田政弘が焦った様子で、SC代表の丸木強に相談を切り出してきたのは、7月3日。総会の約1週間後だ。丸木によると、「TOBされたくなければ株主還元してほしい」。村上はこう付け加えたという山田の説明だった。
アクティビスト(物言う株主)といわれるSCは一時、3割の株式を握るダイドーの筆頭株主。村上が率いる南青山不動産と村上の長女も計5%超を保有していた。
丸木によれば、相談に訪れたダイドーの山田はこうも語ったという。「明日までに(株主還元の)了解をもらえないとTOBされてしまう」
翌4日、事態は急変する。ダイドーが大幅な増配を発表したのだ。
2025年3月期の配当予想を前期に比べ50倍の100円に増やすなど「大盤振る舞い」だった。
自分が答える前に事態は動かない。そう踏んでいた丸木は驚いたが、すぐに次の行動に出る。
還元策の効果で株価が急騰し…