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扇町公園の丘の上にあったケヤキは大阪市の安全対策事業により伐採された=2024年6月27日、大阪市、鈴木智之撮影

 6月26日夜、大阪市内の公園にあった高さ10メートルほどのケヤキが人知れず切り倒された。「安全のために撤去する」という市側の説明に疑問を感じた市民らが日中座り込みをして守っていた「シンボルツリー」だった。

 街を彩り、人を癒やす、道路や公園の樹木。昨年は、中古車販売大手ビッグモーター店舗前の街路樹の枯死が相次いで発覚。神宮外苑(東京)では大量の樹木伐採計画に対して、批判の声が上がった。

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 一方、大阪市ではおよそ2018年度以降、「安全対策」の名のもと、2万本近くの木が伐採されてきた。

 冒頭のケヤキが切られたのは扇町公園(大阪市北区)だ。6月17日以降、この木を含めて計55本が伐採された。

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扇町公園では50本以上の樹木が2週間のうちに伐採された=2024年6月18日、大阪市北区、鈴木智之撮影

 大阪駅から大阪環状線で東に一駅、オフィスや商店が連なる天満駅近くにある。扇町公園はケヤキやサクラが彩る都心のオアシスで、散歩したり、休憩したりと、いつも老若男女でにぎわう。

 毎日のように扇町公園を使っていたという近くの女子中学生(13)は伐採の様子を見て、「台風で倒れそうなら切ってもいいけれど、木はできるだけ多くあった方がいい」と語った。

 6月27日に消えたケヤキは、中でもシンボルと言えるような木だった。扇町公園事務所によると1999年ごろに植えられた。小高い丘の園路にそびえ立ち、大きな木陰をつくっていた。

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扇町公園の丘の上にあったケヤキ。市の職員による伐採理由の説明を市民らが聞いていた=2024年5月24日、大阪市北区、鈴木智之撮影

 翌日、幹の下部だけ残ったケヤキを見に行った。「ついに切られてしまったか」「立派に育っていたのに」などと口々に語る市民らをよそに、午後には重機で根元も掘り起こされた。

 その後、近くの別の場所に、枝が広がりにくい「ムサシノケヤキ」が植えられた。

 座り込みを続けてきた「大阪市の街路樹伐採を考える会」の谷卓生さんは「まさか、『闇討ち』までするか」と肩を落とす。「ホッとするような美しいケヤキだった。暑い日の一休みも、雨宿りもできるような、素晴らしい木。ほんと残念」

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「シンボルツリー」のケヤキに代わって植えられたムサシノケヤキ。木陰はほとんどない=2024年8月6日、大阪市北区、鈴木智之撮影

【動画】大阪市の「安全対策事業」により扇町公園の樹木が次々に伐採された=鈴木智之撮影

 伐採は大阪市の「安全対策事業」によるものだ。公園樹、街路樹を合わせ、2018~24年度に、約1万9千本を伐採する計画で進められている。

 しかし、替わって新たに植える中高木の本数はこのうちの2割ほどしかない。しかも、市の委託により、樹木医らが診断した調査で伐採の必要がないと判断された木も多数含まれている。市によると、弱った木のみならず、「総合的な判断」により、付近の通行に影響がある木なども対象にしているという。

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安全対策事業によって街路樹や公園樹は大阪市内各地で伐採された。上町筋では小さな木に植え替えられ、本数も減り、風景が様変わりした=2024年7月19日、大阪市天王寺区、鈴木智之撮影
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タイワンフウが伐採される前の上町筋=2020年10月、大阪市天王寺区、鈴木智之撮影

 「シンボルツリー」も、診断では枝の一部が弱って空洞ができているが、「剪定(せんてい)または保存」とされ、伐採を必要とはされていなかった。

 ただ、扇町公園事務所は、近…

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