写真・図版
イラスト・米澤 章憲

 介助者と歩行器に体を支えられ、ゆっくりと入廷した。

 90歳。耳には補聴器をつけている。

 88歳だった妻が首に巻いていたネックウォーマーに棒を差し入れて回して絞め、窒息死させた――。

 裁判長から起訴内容に間違いがないかを問われると、小さくうなずいたように見えた。

 今年2月に札幌地裁で始まった裁判員裁判。殺人罪に問われた被告は、沈黙を1分以上続けたり、手で頭を押さえたりすることもあった。質問を理解し、考えを伝えるのに苦労しているようだった。

 弁護人「なぜ奥さんを殺してしまった?」

 被告「……(自身が)認知症で、今のままやっていけないと思って」

 弁護人「どうしてその日に事件を起こしたのか」

 被告「……その日殺すしかないと思った」

 検察側の冒頭陳述などによる…

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