日本一のスーパーコンピューター「富岳」を使い、純国産の生成AI(人工知能)をつくろう――。ChatGPT(チャットGPT)など米国発の生成AIが世界に広がるなか、東京工業大や理化学研究所など日本のAI研究者が結集して挑んだ開発プロジェクトがある。

 挑戦の扉を開けたのは米国留学中の大学院生だった。

 プロジェクトが走り出したのは、2022年10月初め。チャットGPTが世界を驚かす少し前だ。

米国にいた大学院生の興奮と焦り

 「AIの技術レベルが、今後の国力の尺度になる。日本の旗艦スパコンの富岳で、(生成AIの一種の)大規模言語モデル(LLM)開発に挑戦したい」

 米国時間の午前4時に日本とつないだオンライン会議で、小島熙之(のりゆき)さん(27)は、理研の研究者らに思いの丈をぶつけた。

 小島さんは当時、米コーネル大で学ぶ留学生。専門は、人が使う言葉をコンピューターで処理する技術「自然言語処理」だった。

 すでに米国では、文章や画像を生成するAIが次々と登場していた。別の大学院でこの技術を学んでいた笠井淳吾さん(30)は「研究の次元が変わる」と思った。米国で知り合った2人は技術革新のうねりに興奮した。

 同時に、焦りも感じた。米国の熱狂ぶりに比べ、日本から開発の話が聞こえてこない。「なんとか追いつかないと」

 目を付けたのが、理研にあるスパコン富岳だ。

「日本にも出来るはず」

 フランスでは有志の研究者ら…

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