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鈴木達治郎・長崎大核兵器廃絶研究センター教授

 核兵器というパンドラの箱を開けてしまった、第2次大戦中の米国の原爆開発「マンハッタン計画」。これに関与した大勢の科学者の中には、無警告での都市への原爆使用に公然と反対した者や、ドイツの核開発頓挫で計画続行の大義が失われたとして途中離脱した者もいた。計画を指揮した物理学者オッペンハイマーは、米国内で「戦争を終わらせた英雄」「原爆の父」とたたえられたが、戦後は罪の意識に苦しみ、一転して水爆開発に異議を唱える。

 マンハッタン計画が現代に残した教訓とは何か。人類に破滅的結果をもたらし得る技術が生まれた時、科学者と社会はどう向き合えばよいのか。

 原子力工学者で、原子力委員会委員長代理として東京電力福島第一原発事故の対応にも携わった鈴木達治郎・長崎大核兵器廃絶研究センター教授に、科学と倫理について尋ねた。

「ゴジラ」の科学者のように振る舞えるのか

 オッペンハイマーらマンハッタン計画に関わった科学者たちの苦悩や葛藤は、科学と倫理をめぐる普遍的な課題を示しています。

 科学はそれ自体で抽象的に存在するのではなく、科学者によって発見・実現される。そして科学者の意思は国家に左右され、特に戦争によっていかようにもゆがめられてしまう。それが人類初の核兵器開発と使用が残した大きな教訓です。

 では、破滅的結果をもたらし得る科学技術について、科学者はどう振る舞うべきで、社会はどうやってその暴走を防げるのか。

 まず、科学者や技術者への倫…

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