医療DXその先に㊦
個人のためでなく、社会のために医療データを活用する取り組みも始まっている。個別の患者の診療情報を集めたビッグデータや、異なる分野を連結させたデータベースの分析が、新たな治療法・薬の開発などにつながると期待されている。(後藤一也)
認知症やがんのリスク、健康寿命などに影響する糖尿病治療では、検査や薬など電子カルテの情報を集めたデータベースの活用も始まっている。国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)と、日本糖尿病学会は共同で、予防・治療法や合併症の研究に取り組む。
診察時に医師が電子カルテに情報を記録することで、同意をした患者の情報が匿名化された状態でデータベースに集積される。全国74病院が参加し、研究の成果の一部は論文にもなっている。
同センターや循環器病研究センター(大阪府吹田市)、成育医療研究センター(東京都世田谷区)など全国に六つある、「ナショナルセンター」と呼ばれる国立研究機関では、電子カルテの情報を集めたデータベースを構築する事業も2022年4月から始まっている。患者の年齢・性別などの基本情報や病名、検査結果、処方情報、入退院の情報を匿名化。メーカーが異なり書式が統一されていない電子カルテからもデータを集めることができる。83万人分の医療のビッグデータとして、特定の疾患だけでなく、幅広い分野での新たな治療法の開発などにつなげることが期待されている。
電子カルテの情報は、これまでは各病院内でのみ共有され、個別の患者の治療のために「一次利用」されることが多かった。病院の枠を超えたビッグデータとして、社会全体で「二次利用」するには、患者の同意を得る作業や、個人情報保護の観点での様々なハードルがあり、迅速な研究につなげることは難しかった。
新型コロナウイルスの流行期には、日本国内の多くの医療機関で患者の診療が行われた。だが、治療の効果や合併症などの情報は医療機関同士で十分共有されず、薬やワクチン開発などで世界から後れをとった。
医療データを集めるシステムがあり、新型コロナワクチンの初回投与からわずか2カ月で、効果に関する120万人規模の論文を発表したイスラエルとは対照的だった。
国立国際医療研究センターの美代賢吾・医療情報基盤センター長は「医療機関が便利になるためだけではなく、社会として医療データを積極的に活用することが求められる。国が責任を持って医療DXを進めていかなければいけない」と話す。
厚生労働省は、25年1月から一部地域で始まる「電子カルテ情報共有サービス」を、将来的には全国の医療機関にも拡大する方針だ。異なるメーカーの電子カルテの情報を医療機関で共有する。まずは、検査値、アレルギーなどの6情報を閲覧できるようになる。電子カルテの一部の情報を自動で集積するデータベースも構築される見込みだ。また、公的データベースの二次利用をしやすくするための法整備の検討も政府内で進んでいる。
ドラッグ・ラグ解消も
データベースの活用は電子カルテにとどまらない。がんや難病、介護や障害福祉など公的なデータベースと連結させることで、様々な分析が可能になる。
例えば、新型コロナのような感染症危機が起きたとする。自治体が保有する予防接種や感染症発生届のデータと、医療機関の電子カルテがつながれば、ワクチンの有効性や感染症の重症化リスクの分析ができる。年齢や持病との関連が分かれば、様々な対策を講じることも可能となる。
海外で使われている薬が、日…