「ブロードウェーの舞台に立ちたい」
少女はそんな無邪気な夢を持っていた。芸能界の入り口にと受けたオーディションは、最終選考を残すだけだった。
東日本大震災が起きたのは、その2日前。
自宅は大きく揺れ、車中で夜を過ごし、祖父母の家に避難した。オーディションを辞退しようと事務所に連絡すると、「延期になったから、必ず受けて」と言われた。
「あなたが東北に元気を与えられるかもしれないわよ」。母親が背中を押した。
岩田華怜(かれん)、このとき12歳。
2011年春、震災後の混乱さなかの仙台から東京へ。人気絶頂だったAKB48の第12期研究生になった。
アイドルには「アンチ」がつきものだ。岩田にもそうだった。
「震災枠でAKBに入った子」。冷ややかに見るファンは少なくなかった。AKBが復興支援活動をするのに、被災当事者がいる方が説得力はあるのだろう。岩田自身そう思った。
「私が『被災地代表』でいいのかな」 悩んだ日々
翌12年3月、最年少(当時)で正規メンバーに昇格。5月にはシングル表題曲の選抜メンバーに抜擢(ばってき)された。震災がらみのテレビ番組で露出も増えた。
岩手、宮城、福島。トラック…