宇宙に存在するとされる未知の空間は座布団カバーの形をしているかもしれない――。物理学の余剰次元に関するそんな論文が5月、日本物理学会の専門誌に発表された(https://doi.org/10.1093/ptep/ptae070)。未知の空間? 座布団? 著者の元を訪ねた。
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出迎えてくれたのは、大阪公立大の丸信人教授(53)と、大学院博士課程2年の今井広紀さん(26)。丸教授の専門は素粒子論。森羅万象をつかさどる素粒子の振る舞いを、紙とペンを使って理論的に探究する分野だ。実験装置のないすっきりとした研究室で説明を受けた。
隠れた次元が小さく丸まっている?
この世には、星や生物などのモノを形づくる素粒子が、電子やニュートリノ、クォークなど12種類ある。ただ突き詰めて考えると、なぜ12種類なのか、なぜ質量に違いがあるのか、よくわかっていないという。最も軽い素粒子と重い素粒子が、アリとトラックほどの大きな差があるのも謎だ。
解決策として期待されるのが余剰次元だ。その理論は、タテヨコ高さの3次元の世界に、私たちの知らない別の空間が小さく丸まって隠れていると考える。
余剰次元は、大きさが原子1個の大きさより小さく、何次元なのかもわからないが、あらゆる場所に隠れて存在している……らしい。
座布団カバーで素粒子は存在できるか
余剰次元の発見はノーベル賞間違いなしの成果とみられるが、報告例はない。SFのような話だが、「存在は実験で否定されていない」(丸教授)という。
では、余剰次元はどんな空間なのか。6次元や22次元など、頭でイメージしにくい複雑なものもあるが、今井さんらは、座布団カバーの表面のようななめらかな二次元だと仮定し、素粒子が存在できる条件を考えた。
注目したのは、座布団の四隅にあるとがった部分。素粒子は、特異点と呼ぶこのとがった部分に巻き付くように存在できる。右手型と左手型を持つ素粒子のすべての反応を解析したところ、質量を持つ素粒子が存在するには、あるパターンがあった。
右手型と左手型が、同じ場所に巻き付くと質量を持ち、別々の場所に巻き付くと質量を持つことができなかった。
■目の前の世界だけではわから…