インバウンドでにぎわう京都屈指の観光地・嵯峨嵐山から、北へ車で10分ほど。かつて栄えた清滝の集落があることは、あまり知られていない。

 初夏の平日に訪れると、山間の集落は静寂に包まれ、ここだけ時の流れが止まっているかのようだ。聞こえてくるのは、清滝川のせせらぎだけ。渓谷の下に下りて空を見上げると、木々の新緑が輝いて見えた。

新緑につつまれた青竜橋の向かう先は、異界への入り口のようだ=2024年5月23日午前10時59分、京都市右京区、新井義顕撮影

【撮影ワンポイント】 異界へ通じそうな雰囲気が漂う清滝の橋

 赤い渡猿橋や、上流の金鈴橋、下流の青竜橋の間をいいアングルを求めて何度も往復した。橋と川の流れをからめてみようと青竜橋に行くと、ツツジが覆う手前から、薄雲越しの陽光が照らす先の方へ向けて、普段は見えない道が開かれているようだった。異界へ通じるようなその道は、日差しが強まると消えてしまった(新井義顕)。

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愛宕神社の玄関口

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新緑につつまれて渓谷にかかる、あかね色の渡猿橋=2024年5月23日午前11時50分、京都市右京区、新井義顕撮影

 清滝は、山岳修行の霊場・愛宕山(標高924メートル)のふもとに位置し、山頂にある愛宕神社への玄関口としてにぎわった。全国に約900ある愛宕神社の総本宮で、参拝するには今も4キロの山道を歩いて登るしかない。火伏(ひぶせ)・防火の霊験があると信じられ、火事多発の江戸時代には、とりわけ多くの参拝客が押し寄せたという。

 「伊勢へ七度 熊野へ三度 愛宕さんへは月参り」。参道の入り口に立つ看板の古歌が、往時をしのばせる。

ケーブルカーも廃線に

 第2次世界大戦の名残もある。廃虚となったふもとの駅舎だ。頂上は遊園地やスキー場があるリゾート地だった。昭和初期に清滝と山頂を愛宕山鉄道のケーブルカーが結んだが、鉄材供出のために廃線になった。

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新緑につつみこまれそうな青竜橋=2024年5月23日午前11時42分、京都市右京区、新井義顕撮影

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