世界最大規模の国際美術展ベネチア・ビエンナーレが4月、イタリアで開幕した(11月24日まで)。横浜トリエンナーレなど国内外の国際展の企画に携わり、今回ベネチアの内覧会を見た木村絵理子・弘前れんが倉庫美術館館長が報告する。
弘前れんが倉庫美術館館長・木村絵理子さん寄稿
カラビニエリと呼ばれるイタリアの軍警察が居並ぶ物々しい空気の中、60回目となるベネチア・ビエンナーレが開幕した。ブラジルのアドリアーノ・ペドロサがキュレーターを務めた今年のタイトルは「Foreigners Everywhere(主催者訳:どこでも外国人)」。まるでゴールデンウィークの観光地を指すようなタイトルだが、筆者が翻訳者であれば「よそ者だらけ」と言い換えたい。
歴史をさかのぼれば日本も含めて世界中で繰り返されてきた移民や難民、占領や植民による人の移動に意識を向けつつ、それぞれの土地で複雑に入り組んだ差別や権力構造を丁寧にときほぐす作品が紹介された。
造船所跡を用いた企画展会場の冒頭を飾るのは、ニュージーランドの先住民族であるマオリの女性4人からなるマタアホ・コレクティブの作品だ。天井一面に張り巡らせた紐(ひも)が、美しいパターンを織りなす。その柄はマオリ族の出産に際して、生まれてくる子が神とつながるために用いる織物に由来するという。
しかし使われた素材は梱包(…