あらゆる細胞に変化できるiPS細胞からヒトの卵子や精子をつくろうとする研究が進んでいます。京都大のグループは5月、卵子や精子になる手前の「卵原細胞」や「前精原細胞」をつくったと発表しました。この技術が行き着く先に何があるのか。生命倫理に詳しい東京大学医科学研究所の神里彩子准教授に聞きました。
――ヒトの卵子や精子の手前の細胞をiPS細胞からつくれたと報告されました。
ヒトの命の「はじまり」の仕組みを知ることにつながる研究です。ライフサイエンス(生命科学)の根幹とも言える分野で、不妊の原因解明などにつながることも期待されています。
基礎研究として行われる限りで、このような研究の進展は、歓迎すべきことだと思います。
――社会にどれほどの影響を与えるでしょうか。
まだiPS細胞からヒトの卵子や精子まではできていないので、社会に影響を与える可能性がでてくるのは、もう少し先の未来の話になります。
ただ、iPS細胞から卵子や精子をつくる技術が本当に実現すれば、使い方によっては、これまでのヒトの生まれ方の概念を大きく変えるものになり得ます。
卵子や精子がない人やつくれない人でも、体細胞から自分の卵子や精子をつくってパートナーとの子どもを授かれる。男性から卵子を、女性から精子をつくれれば、同性カップルでも、自分たちと遺伝的につながった子どもを授かれる。
卵子も精子も自分の体細胞からつくって受精させれば、生物学的な親が1人という可能性も出てきます。
また、誰の体細胞を使うかという点では、市販されている細胞や死者の細胞、生まれたばかりの赤ちゃん、さらには、まだ生まれていない胎児の細胞から卵子や精子をつくって生殖に使う――。そんなことにまで、考えられる使われ方の幅は広がります。
未来の生殖技術 いまのうちから考えるべきことは
科学技術は急速に進んでいます。2023年には、オスのマウスの細胞から卵子をつくり、生物学的な親がオスだけのマウスを生むことに成功したと報告されました。将来、ヒトでもできるようになるかもしれません。できることは何でもやっていいのか? 後半では、ルールを考える際のポイントも聞きました。
――何か規制が必要だと感じます。
規制が必要かどうかは社会が…