秋田名物「いぶりがっこ」の奥深い味わいが楽しめる新しいクラフトビールが誕生した。従来は廃棄していた漬け液をなんとか活用できないかと考えた、いぶりがっこ製造の2社が、地元のビールメーカーと共同で企画・開発したもので、数量限定で10日に発売された。
新商品は、雄勝野きむらや(秋田県湯沢市)製造のいぶりがっこの漬け液を使った「いぶりクラフトエールMANTZNAR(マンツナー)」と、ゆめ企画須藤健太郎商店(同県羽後町)のブランド「金の蔵」の漬け液を活用した「KINNOKURA Ale(エール)」の2種類。醸造はどちらも羽後麦酒(同町)が手がけた。
「漬け液をなんとか生かせないか」。雄勝野きむらやの木村吉伸社長(50)がそう考えるようになったのは、原材料費の高騰がきっかけだった。いぶした大根を漬け込む液は米ぬかや塩、砂糖、水あめなどでつくるが、物価高が続き、中でも、輸入のざらめ砂糖の値段はここ数年で1・5~2倍に。「貴重な砂糖が入ったいい液体を、毎回大量に廃棄するのはしのびない。無駄にしない方法を探してきた」と木村社長は振り返る。
「漬け液を生かしたい」との思いは、ゆめ企画の薄井あゆみ社長(42)も同じだった。「うまみや香りが残り、栄養も豊富なのに捨てるのはもったいない。付加価値をつけて何かに活用したかった」と薄井社長。
昨夏以降、社長たちはそれぞれ、県総合食品研究センターに相談を持ちかけた。応じた同センターの研究員が、いぶした麦芽を使ったドイツ・バンベルク特産のラオホビールの風味が、いぶりがっこに似ていることを紹介し、漬け液を使ったビールの開発を目指すことで両社と合意。センター内で漬け液を分析し、加熱殺菌処理など品質を保つための技術提供も行った。
同センターが考案したレシピをもとに醸造した羽後麦酒代表の斎藤隆弘さん(52)は「雄勝野きむらやの漬け液を使ったビールは、漬物のうまみも感じてもらえるようにとモルト感を抑えたペールエールタイプ。ゆめ企画の漬け液を使ったビールは、スモーキーさと、桜の花からとれた『秋田美桜酵母』の華やかな香りがマッチしたアンバーエールタイプに仕上げた。伝統食いぶりがっこの魅力をさらに知ってもらうきっかけになれば」と期待を込める。ともに330ミリリットル入りで、参考小売価格は千円(税別)、各300本限定。「道の駅うご」などで購入できる。(杉山圭子)