応募の4分の1しか、応えられない……。
ある活動が、そんな足踏みの状況にある。
経済的貧困や社会格差によって、サッカーを諦めていたり、続けるのが難しかったりする子どもを応援する事業だ。スポーツ機会の格差解消に取り組む認定NPO法人「love.futbol Japan」が、2021年度から始めている。
年度始めに子ども1人あたり奨励金5万円を給付し、スポーツメーカーと提携して用品も送る。
今年度、支援申し込みは40都道府県から408人。初年度の約4倍に膨らんだ。だが、資金的な事情から奨励金は98人にしか届いていない。
応募者は約9割が1人親世帯、約6割が世帯年収200万円以下。申請理由は切実だ。
「元夫からの養育費がストップし、息子にクラブをやめてもらうことになりました。よそのお父さんと子どもがサッカーをしていると、一緒にいいですか?と自ら声をかける姿を見ると、涙が出ます」
「クラブの月謝は4400円と高く、弟の学童入所を踏まえると、継続は厳しいです。子どもに伝えると、『ママが大変なら大丈夫だよ』と。わらをもつかむ思いで応募しました」
活動を支えるのは、約440人の個人やサッカー関連団体。19人のプロサッカー選手も年俸などの1%を資金に充てる形で協力している。
その一人が横浜マのGKポープ・ウィリアムだ。
母子家庭で育ったことを、インターネットの投稿サイト「note」で明かしている。
幼稚園時代に、両親が離婚。母親は事業で父親がつくった借金を引き継いだという。
「サッカーを続けられないということではなかったが、一般家庭ほど道具を頻繁に買えることはなかった」と振り返る。「母親は貧しい思いをさせないよう、頑張っていました。中学から東京ヴの育成組織に入ると、かかるお金が増え、深夜0時を過ぎてから夜勤に向かう姿をみていました」
応援活動を通じ、ある母親から「おかげでスパイクやグローブを買い与えられた」という手紙をもらい、昔の自分を思い出すという。
「お金がないこと、弱いことを見せて支援を求めるのは勇気がいること。まず、こういう問題があるという認識を広めることが大事だと思います。そのうえで、できる人が手を差し伸べられればいい。自分も活躍することで、支援の輪の広がりへの貢献につながると思います」
同法人代表の加藤遼也さんは訴えかける。
「支援希望の増加に社会の危機感が追いついていないのが現状です。勇気をもって申し込んだのに支援が届かないと、『社会に認められない』という経験をさせてしまう」
賛同の規模は大きくならないだろうか。選手やスポーツを取り巻く人々の可能な限りの支援で、子どもたちが笑い、周囲のほおは緩むだろう。
見せませんか、スポーツの力を。(編集委員・中小路徹)